祭場に到着した女王ヘリオトープは騎士団長、大賢者を控室に呼ぶとーー美しい顔を歪めた。目の前で猪と狩人が片膝をつき忠誠を示しているのだ。

「仮装大会の趣旨を履き違えるにも限度がありますよ、セミラ、ミトラス」

 わなわなと震える声音には怒りと諦め、それから笑いが含まれており、セミラが顔を上げた途端に弾けた。

「ふふふ、猪って、ふふっ」

 ちなみにヘリオトロープは可憐な花の精を模し、とても似合っている。

「私らしくて良いと思ったのですが」

「通常はドレスなどの華やかな衣装を纏うと存じてますが、僕は隣に合わせただけです」

「私のせいにするのか!」

「そうは言ってないですよ。どうせドレスをお持ちでないのでしょう?」

 恒例の言い争いの気配を咳払いで牽制し、ヘリオトロープは2人を交互に見やる。

 決して平穏無事と言えないものの、女王の言いつけを守っていると報告が上げられており、その点は評価に値する。しかし、騎士と魔術師という隔たりの解消までには至っていなそうだと即座に判断。

「こんな事もあろうかと、わたくし準備をしておきましたの!」

 ヘリオトロープが片手を上げ、控えていた側付きが動く。少しして王家の紋が刻まれた衣装箱が運ばれてくる。

「どうぞ開けてみて」

 話の流れ的に着替えを要求されているのは明らか。まずミトラスが開封し、正礼装を掲げた。

「いはやは気合が入り過ぎでは?」

「予行練習と思えばいいわ。さぁ、セミラも開けて」