丁寧に旨味を抽出しようとしている姿が茶器へ映り込む。
 まさかセミラの為に手間を惜しまないのかと過ぎり、いいや違うと念じる。ミトラスはわざわざ魔術で茶を入れ直して席へ戻った。

「貴殿と私で仮装大会に出ようと思う」

「ーーは?」

 セミラはティーカップを受け取り、仮装大会の案内を差し出す。流れでそれを目にしたミトラスが見開く。

「貴女、正気ですか? 大賢者と騎士団長が見せ物になるなんて」

「陛下は花の精に仮装するそうだぞ」

「はぁ?」

「貴殿はどうする? 私はだな、この森で見掛けた猪に仮装したいとーー」

「待って下さい!」

 決定項として進んでゆく会話の流れにミトラスが異議を唱える。

「百歩譲って来賓として祭りに携わるのならいいでしょう。しかし、こんな下らない催しに協力は致しかねます。まったく冗談じゃない!」

「あぁ、冗談など言ってない、本気だ。女王は騎士と魔術師を身近に感じて貰う機会だと仰っている。何故なら仮装大会は夫婦で出場するのが参加条件で、互いの良い面を披露し合うからだ」

「……はは、地獄のような祭りですね。僕は猪に扮した妻について公衆へ語らなければいけないと?」

 眉間を揉み、項垂れるミトラス。

 一方、セミラは口角を上げる。

「猪が不満ならば熊や狼でもいいぞ」