朝、いつものように学校に着くと、佳代が嬉しそうに笑顔で近づいて来た。
何か話したいことがあるようだ。
「…恵美!!聞いて、聞いて!!達也君から付き合ってくれって言われちゃった!!」
達也君とは佳代が以前から片思いだった男の子だ。
「すごいよ!!佳代やったね!!」
佳代は真っ赤になって喜んでいる。その姿を見ると、私まで嬉しくなる。
すると佳代は、私をじっと見る。
「ねぇ、恵美は彼氏欲しくないの?」
「う…ん、それは…彼氏は欲しいよ。」
突然、佳代は何かひらめいたように、手をポンと叩いた。
「あっ、でも恵美には、あの最強イケメン二人がいたんだね。」
「…佳代!でもあの二人にとって私なんてきっと子供だよ。女性として見てくれていないよ!」
すると、佳代は私の顔をジッと見た。それは何かを探るような目だ。
何か心を読まれているようで、ドクリと心臓が鳴る。
少し時間をおいて、佳代は悪戯な表情をした。
「…恵美はさぁ、あの二人が好きなんだね。」
「…ち…違うよ!!」
佳代は焦る私を見て、面白そうにクスクスと笑った。
「恵美は解りやすいけど、素直じゃないね!」
その日の放課後、佳代はさっそく達也君と待ち合わせをして帰るらしい。
嬉しそうな佳代の顔を見ると、羨ましくも思ってします。
(…彼氏か…ちょっと羨ましいかな…)
佳代が先に帰ってしまったので、今日は一人で帰る支度をしていた。
すると、同じクラスの田中くんが突然話しかけて来たのだ。
田中くんは、サッカー部のキャプテンでかなり人気の男子だ。
二人きりで話したのは、初めてだが、明るくて性格も良さそうだ。
真っ黒に日焼けして、奥二重の切れ長の目をした爽やか青年という感じだ。
「ねぇ、恵美ちゃん、ちょっと廊下に来てくれないかな?」
田中くんは私を教室の外へ連れ出した。
すると、いきなり顔を真っ赤にして話し始めたのだ。
「あのさぁ、恵美ちゃん…今、付き合っているヤツとかいるの?いつも佳代ちゃんと一緒だったから、なかなか話す機会が無かったのだけど…その…えぇ…と。」
田中君は何か言いずらそうに小さな声になっている。
「うん、特に付き合っている人なんていないよ。」
田中君は真面目な顔で真っすぐ私を見た。
「ぼ…僕じゃダメかな?恵美ちゃんのことずっと可愛いなって思っていて…その…できれば付き合って欲しい。」
突然の話に驚いた。
まさか私が告白されるとは、想像もしていなかったのだ。
どういう顔をして良いのか分からない。
顔が沸騰したように熱くなっているのが分かる。
「…あ…あの…私は…すごく嬉しいけど…付き合えないの、ごめんなさい。」
「…他に好きな奴いるの?」
「…ご…ごめんなさい!!」
私は走って教室を出た。
なぜ走ったのか自分でも分からない。
なぜか逃げるようで、心がチクリと痛むが、走らずにはいられなかったのだ。
すると、田中くんが後ろを追いかけてくる。
校舎を出て校門に向かって私は走った。
間もなくして、学校の校門前に、龍崎が立っているのが見えたのだ。
龍崎は微笑んで手を差し伸べてくれている。
私は、田中くんが見ている前で龍崎の手を握ったのだ。
そっと振り返ってみると、田中くんの顔が強張っているのが分かる。
「…恵美ちゃん…その男…誰?」
後から悲しげな田中君の声が聞こえた。
龍崎の手を握り、私は車に乗り込む。
(…田中くんごめんなさい…良く分からないけど、君の想いに応えられないよ…)
車のシートに座り、私は無言で俯いていた。
「…恵美様、車をお出ししてもよろしいですか?」
「…はい。お願いします。」
車はゆっくりと走り出した。
バックミラーを覗くと、田中くんはずっとそこに立ってこちらを見ていた。
「恵美様、彼は恵美様のことが、お好きなのではないでしょうか?」
「…告白されたの。…付き合って欲しいと言われた。」
「なるほど、恵美様は可愛いですからね…それでどうするのですか?」
「…以前の私だったら、嬉しかったよ、でも、今はそう思えないの。」
私は運転席に座る龍崎の腕を、後ろからギュッと掴んだ。
「恵美様?」
「龍崎達からみたら、私は子供で、まったく女性としての魅力も無いよね?」
「恵美様、私も早乙女も、貴女のことは魅力的で可愛い女性だと思っていますよ。」
龍崎の言葉は本心なのか解らない。
ただ、慰めかも知れないけれど、その言葉はとても私の心を温めてくれる。