「ぶ…ぶつかる!!」

私は自転車に急ブレーキをかける。

自転車は、ギギギーッと金属音を出しながら止まったのだ。
男性達とぶつかるギリギリのところで自転車は停車した。

「おじさん!危なく轢いてしまうとこだったよ!」

私は文句を言いながら、その男性を見上げた。

しかし、その男性を見た瞬間に、驚きで言葉が止まった。

その男性達は、今までの人生で見たこともないほどに美しい風貌をしているではないか。
黒のスーツが恐いほど似合っている。
この世の者とは思えないとはこういう事なのだろう。

まるでアニメの世界から出てきてしまったのではないかと思うほどだ。

その二人は、私に向かって微笑みを浮かべる。

「…恵美様ですよね。お待ちしておりました。」

「-------っえ?なんで、私の名前を知っているの?」

私は名前を呼ばれたことに驚き、目を大きく見開き固まっていると、この二人はさらに驚く行動に出たのだ。

いきなり私の両側に立ち、なぜか腕を掴むと私を持ち上げようとする。
ジタバタと暴れてもお構いなしだ。

そして、近くに止められてある黒くて大きな車に乗せられてしまった。
いや、乗せられたというよりは、押し込まれたのだ。

(…な…なにこれ…新しい手口の誘拐?)

「ギャー!!!助けて!!!」

驚き過ぎて声を出すのも忘れていた私は、急に大声で叫び始めたのだ。

しかし、私が暴れても、大きな声を上げても、二人はクスクスと笑っている。
その美しい顔がなぜか余計に恐怖を感じさせるのだ。

すると、その一人が私に向かって声を出した。

「…お嬢様、そんなに暴れないでください。お怪我しますよ…」

私がいくら暴れても、車はどこかに向かって走り始めている。
もちろんドアは開かない。

そして私が暴れているうちに、車は大きなお屋敷の前に到着したようだ。

私は車から降ろされた。
すると、目の前には品の良い女性が、何故か涙を浮かべて立っているのだ。
ちょうど私の母親くらいの年齢だ。

その女性は私に近寄ると、いきなり私の両手を握った。
女性の瞳からはポロポロと涙が頬につたっていた。

「…恵美さん。会いたかったわ…」