「お母さん、行ってきます!」

いつも通りの朝、制服を着て玄関で靴を履きながら私は母に声を掛けた。
ここまでは変わらない日常だった。

いつもはここで母が、忘れ物は無いのか?等大きな声が聞こえて来るのだ。

…しかし、今日は違っていた。

父と母が珍しく玄関まで見送りに来たのだ。
しかもやけに神妙な面持ちだ。

先に声を出したのは母だ。

「…恵美、身体には気を付けてね…何かあればお母さんに連絡してね…」

「…っは?」

私は意味が分からず怪訝な声を出す。

母に続き父が何か言おうとしている。
父はなんと今にも泣きそうな顔で、私を抱き寄せたのだ。

「お父さんは…いつも恵美を心配しているからな…」

私はなぜ今日に限ってそんな事を言うのか理解できない。

「…はぁ?二人ともどうかしているよ?…遅刻しちゃうから、もう学校行くね…」

高校へ行くだけなのに、やけに大袈裟なお見送りだ。

意味も解らず、どうしたのだろうという戸惑いと、なぜか胸騒ぎのような、もやもやした気持ちになる。

(…まるで、もう会えないみたい…変なの…どうしたんだろう?…)

しかし、時計を見ると遅刻ギリギリの時間になっている。
私はとりあえず学校へと急がなくてはならない。
私は自転車に飛び乗り、全力でペダルを踏んだ。

学校の校門が見えて来たので、ラストスパートとばかりさらに速度を上げる。

その時!!

突然、誰かが行く手を阻むように目の前に立っているではないか。

私は大きな声で叫んだ。

「危ないので、どいてください!!」

しかし男性二人が私の邪魔をするように、目の前に立ちはだかる。