初対面からあんな調子で接してきた
蓮見さんだけど、親しみやすいし
私と筒井さんの為に色々してくれる
思いやりのある人だ‥‥


『井崎さん、同期の中でもすごく
 綺麗な人ってよく話題に出ます。
 受付のもう1人の方もとても綺麗
 なので華があるって。』


私なんかが話題になるの!?


なんの取り柄もなく、今の部署だって
自分で決める事さえ出来なかったのに
誇れることすらない


「ありがとう‥‥嬉しいけど
 恥ずかしいから。」


『いいなぁ‥‥霞は本当に綺麗だから
 羨ましい。お肌だって透明感あって
 ツルツルモチモチ。私なんて
 エステ頼みで行かなかったら
 どうなることやら。』


『犬塚先輩は綺麗ですから。』


『えっ?‥‥なに、杉浦君どした?』


少しだけ真剣な顔をして真っ直ぐ
菖蒲を見つめた後、お弁当箱を
急いで片付けた杉浦君は勢いよく
立ち上がり私達に頭を下げると
走って行ってしまった。



『‥‥‥えっ?』


「良かったね。綺麗だって‥‥」


私は事情を知ってるから分かるけど、
今のは彼なりの一生懸命な
アピールなのかもしれない


照れ臭かったのかな‥‥。
なんか弟みたいで可愛いとさえ
思えてしまう。



別れたばかりの菖蒲が、
歳下の杉浦君の事をこれから
どう意識していくのかも見守りたい。


呆気にとられていた菖蒲も
食堂を出ていく杉浦君をずっと目で
追っていて、私の方を見た時には
少しだけ照れくさそうにしていた



『なんか‥‥若いっていいね‥‥』


「若いって1つしか違わないでしょ?」


『そうなんだけど‥‥』


確かに気になってる人に
はっきり何かを伝えるのって
とても勇気がいると思う。


私なんて3年も言えなかったから、
杉浦君なんてすごいよ‥‥


年々、発する言葉を躊躇ったり
勇気が出せなくなりそうになるのは、
責任感や立場が変わって、自分の
行動や発言が会社にとってマイナスに
ならないかが関わるからなのかな‥


子供の時なんて、何にも考えず
素直にはっきり言えてたのにね‥



菖蒲と別れて午後の業務を受付で
こなし、あっという間に就業時刻の
終わりを迎えてしまった。


『井崎さんお疲れ様。
 あまり遅くならないようにね?』


「はい、これだけ入力してから
 上がります。お疲れ様でした。」