3回建てのコーポのような建物を
見上げてから古平さんと2階まで
階段で上がり、花野さんの家の
チャイムを鳴らした


ピンポン


『まずは私が挨拶するから、
 井崎さんは少し離れてて?』


「あ、はい‥」



ドアスコープにうつらない場所まで
一旦下がると、その場でもう一度
深呼吸をした


のこのこ着いてきたものの、
ある意味告発された側のようなもので
どう向き合うべきか分からない‥‥


『(はい‥‥)』


ドクン


『花野さんこんばんは。
 総務課の古平です。少しだけ
 お話いいですか?』


『(‥‥‥‥はい。)』


古平さんが私を見て頷いたので、
私も小さく頷いてから近寄った。


ドクドクと心臓がどんどん早くなり
私はお守り代わりに身につけている
ネックレスにそっと触れる



筒井さん‥‥‥
ダメかもしれないけど、素直に
向き合ってみます。
だから見守っていてください‥‥



ガチャ ガチャガチャ
キィ‥‥‥


『‥‥すみませんお待たせ‥ツッ!!』


「は、花野さん待って!落ち着いて‥」


ドアを開けてくれた彼女が、
私を見た途端青ざめるかのようにして
ドアを閉めようとしたので、
2人でドアを押さえる


会社で見る華やかなメイクもしていない
ラフな格好の彼女に驚いたけど、
すぐに力を抜いてドアを離してくれた


『あの、ここだと不都合なので、
 すぐそこにある
 カフェでもいいですかぁ?』


えっ?


『花野さん。会社で話したかったん
 だけど、企業外で話す大切な話だから
 玄関先でも私たちは構わないから
 家の方がいい。とてもカフェでお茶を
 しながら楽しく話す内容ではないの。
 ここがダメなら一緒に社に戻って
 もらうことになる。それくらい
 あなたがとった行動は大きな問題に
 なってる。分かるかしら?』


『‥‥‥‥』


古平さん‥‥


厳しい言葉だけど、仕方ない。
遊びで来たんじゃないということを
真顔で伝えているから。


わざわざ上司が自宅まで来たことに
対しての態度もやっぱり良くない。


『近所の方の目もあるから、
 玄関まで入らせてもらえない?」


『‥‥はい。』


古平さんと一緒に家の中に
入れさせて貰うと、静かに扉を閉めた。



『もう私会社を辞めるんで
 関係ないですよね?』


『ええ、辞めてもらうのは自由よ。』


えっ?


驚いて思わず古平さんの方を
パッと向いてしまった


『いい?仕事を続けるのも続けないのも
 本人の自由よ。ただ、問題なのは
 あなたのその辞め方。
 他人ならまだしも、時間を割いて
 あれこれを教えてくださった
 先輩の噂や申告をしたことなの。
 根も歯もない思いつきや考えで
 企業は大ダメージを
 受けることもある。あなたのその
 発言は何万人という社員の明日を
 奪うことになるかもしれない。
 それでもあなたの発言は嘘偽り
 ないものなのかしら?』