私が泣いてるといつもこうして
そばにいてくれた‥‥


泣くなら俺のいるところで泣けばいい。
そう言ってくれたことを思い出す。


今は抱きしめても貰えない。
治療のキスも
鼻も摘んでもらえない。
分かってても声を聞くと寂しさが
どうしても増してしまう‥‥




『大丈夫じゃないだろ?
 ‥‥‥無理をするな。』


筒井さん‥‥



『お前のいいところは優しくて
 素直なところだろう?
 ツラい時は連絡をしろ。いいな?』




筒井さん‥‥今日
本当は蓮見さんにもっと
本音を言いたかったんです。


なんで入社して間もない人から
私だけではなく、佐藤さんまでも
悪く言われるのだろうって。



涙が溢れながらも小さく返事をすると、
電話の向こうで筒井さんが小さく
笑ってくれた気がする



『フッ‥‥いい子だ。』



筒井さん‥‥‥
こんなに遠くに離れてるのに、
それでも助けてくれたのは何故?


待っていろとも言われてない。
それでも連絡していいと言ってもらえた



それだけで‥‥‥私はやっぱり
嬉しくて仕方ありません‥‥



その日はツラいことがあったにも
関わらず、筒井さんの声が消えないようにハンカチを抱きしめて眠った。



週末は余韻に浸りながらも、
元気をもらえたから落ち込まず
いられた気がする。




『終業後、花野さんの家に行くから
 一緒に来てもらえる?』



週明け。
出勤すると、古平さんからそう言われ、
正直迷って不安が大きかったけど、
やっぱり気になって行くことにした。



佐藤さんは、蓮見さんと面談をして、
これ以上自分が花野さんに言えることは
ないと言い、古平さんに任せる方向で
訪問は辞退されたみたいだ。


蓮見さんは男性なので、
女性の家に1人で訪問は難しく、
かといって古平さんは当事者
でもないので私にお声がかかった。



『井崎さん‥‥不安?』



タクシーに乗り花野さんの家へ向かう
途中、古平さんがそう聞いてきた



「いえ‥‥でも‥‥真実を知っても
 知れなくてもそれを許せるかが
 分からないんです。」



『そう‥そうよね‥‥。
 彼女には社会人として大切なことを
 伝えてあげるといいわ。
 もしそれでダメでも彼女はそれを
 知らないまま生きるのと知って
 生きるのとでは全く違う人生を
 送ることになるから、やれることを
 やるしかないわね。』


古平さんに頷くと、小さく深呼吸をして
花野さんの事を考えた。



私も1年前は彼女と同じ立場で
毎日不安で責任感に押しつぶされそうに
なってたじゃない‥‥


嘘をついて誰かを傷つけることは
しなかったけど、佐藤さんも山崎さんも
言わなかっただけで、出来の悪い
私に対して色々思うところもあったはず

 

『ここね。‥‥着いたわ。』