初対面なのに名前も名乗らないし、
いきなり話したいことがあるって
言われても怖い‥‥


社内でもその‥‥告白みたいなことを
知らない人にされたことはあるけど、
みんな部署や名前を伝えてくれた。


街中で声をかけられるなんて
初めてだし、なんとなく逃げた方が
いい気がしてしまったのだ。


『ちょっと!井崎さん待って!!
 本当にすぐ終わるから!!』


やだ‥‥
なんで追いかけてくるんだろう‥


家まで着いてきたり電車に乗って
捕まえられると嫌だから、
ここは安全な会社に戻るべきだと
思いつつも、同じ会社の社員だと
この人も入ってきてしまう?


働かない頭で考えながら早足で
歩いていたのを少し早めに走ると、
少し先に交番が見えたのでそこまで
なんとか逃げようとした


『捕まえた‥‥なんで‥逃げるの?
 話したいだけなのに。』


「嫌‥‥離してください!!』


話したいという人の態度ではないって
思えるほど力強く手首を捕まれてしまい
女の力じゃ振り解けない


こんな時にスマホはカバンの奥だし、
勇気を出して大きな声を出せば
誰か助けてくれるだろうか‥‥


触られている手首も気持ち悪くて
どんどん冷や汗が出そうになる


「本当に‥嫌‥‥離して‥‥」


『何してるんだ!!』


えっ?


一瞬の出来事だったけど、
私の腕を掴む相手の手首掴んだ人が
片手で私を自分の背中側に隠すと、
相手の腕を思い切り捻った


『痛っ!!離せって!!』


『離す前に掴んでた理由を言え』



嘘‥‥‥‥
なんでここに‥‥‥


「筒井さ‥‥どうして‥‥」


まるで夢でも見ているのではないかと
思うほど、聞こえる声も見えてる姿も
幻なんじゃないかって思える


昨日はフランスにいて今日だって
メールをくれたのにそんなに
すぐ来れるはずないのに‥‥


信じられないけど、
私の右腕を掴む手は間違いなく
筒井さんの手で、もう一度見上げた先に
いる愛しい人の姿に涙が溢れた


『俺は連れてくるように頼まれた
 だけだから離してくれよ。おいっ!』


人通りが多い大通りが目立つけど、
かえって人が多いからこそ
悪さができないのか相手の人も
本当に焦っている。


『井崎さん悪いけど拓巳に
 連絡して来てもらうように伝えて。
 お前は一旦会社に戻れ。』


「で‥‥でも筒井さんが」


『フッ‥‥こんな時まで人の
 心配してる場合か。ほら早くしろ。』


一瞬振り返った顔が私を見て
呆れたように笑うと腕を離してくれた。