美味しそうにマスターの珈琲を飲む
ジュニアに私も嬉しくなり、
暫く3人で話しながら時間を過ごした


『ここでいいのか?』


「はい、送っていただきありがとう
 ございます。」


家の前まで車で送っていただくと、
私と一緒に車から降りたジュニアに
丁寧に頭を下げた。


『井崎さんは変わってるな?』


「えっ?‥そうですか?」


『あんな目にあったのに、俺のことを
 一度も責めないなんてな‥‥。
 拓巳になんてものすごく叱られたよ。
 それが普通で生きてきたから、
 心配してくれたり、励まされたり
 色々と嬉しかった。‥ありがとう』



トクン


軽く引き寄せられた私は、簡単に
ジュニアの腕の中に入ってしまい、
慌ててそこから抜け出そうとした


『ごめん‥‥少しだけ‥‥友達だろ?』


「‥‥‥」


この人はもしかしたら、こうして
甘えられる人がいないのかもしれない。


社長のご子息という立場で、
自分の生き方が上手くできてないのかも
しれない。


『(自由に生きていいんですかね?)』


マスターに話す時の表情が、
まるでそうしたいけどできないと
言わんばかりの顔だったから‥‥


『すまない‥‥。じゃあまた明日。』


「はい‥‥おやすみなさい。
 お気を付けて‥‥」


ジュニアが車に乗りもう一度頭を下げて
お辞儀をすると、優しい笑顔を向けて
くれると車は発車した。



家に帰り簡単にご飯を済ませたあと、
お風呂に入ると、スマホが震えて
慌ててカバンから取り出した



「もしもし」


『(‥‥今大丈夫か?)』


筒井さん‥‥


たった一言なのに、どうして
筒井さんの声にだけ胸が苦しくなるほど
締め付けられるのだろう


リビングにストンと座り込んで
しまうと、今日のことを思い出して
涙が出そうになる


「家なので大丈夫です。
 筒井さんの声が聞きたかったから
 願いが届いたのかと思いました‥」


ツラかった日に必ずと言って
いいほど気にかけてくれる優しさに
また目尻から涙が溢れた


『(拓巳から連絡が来た‥‥。
 どういうことか話せるか?)』


やっぱり蓮見さんが筒井さんに
連絡してくれたんだ‥‥


私は泣きながらも、今日あったことを
筒井さんにゆっくり話し終えると、
顔がぐちゃぐちゃになり、ティッシュで
何度も目元を押さえた。


『(お前はどうしてこうも巻き込まれて
 しまうんだろうな‥‥。
 そばにいてやれなくてすまない。)』