『君の特別な場所ってわけか‥。
 滉一も来たことはあるのか?』


トクン


「はい‥‥私なんかよりもずっと前から
 いらしてます。」


『そうか‥‥。』


筒井さんがイリスさんを連れて来た時、
ものすごくツラくて悲しかった‥


ただ素敵な場所を教えたかった
だけなのにあの時は筒井さんも傷つけて
マスターにも迷惑かけて、自分の幼い
行動を思い出すだけで情けなくなる


ジュニアを連れてきたのは、
単純にリラックスして欲しかったから。


忙しいのに、医務室で付き添って
くれていたしお礼も込めてここに
連れてきたかったのだ


マスターが挽くコーヒー豆のミルの
音、コポコポとゆっくりおとされる
視覚や漂う香りに、ジュニアの表情も
先程より明るい気がする



『お待たせしました。
 伊野尾さんにはグアテマラを。
 さっぱりとした程よい酸味とコクが
 リラックス出来るかと思います。』


『ありがとうございます‥
 いただきます。』


筒井さんとは違うけど、背が高く
顔立ちも整っているジュニアが
珈琲を飲む姿はとても美しいと思う


こんな凄い人とここでこうして
珈琲を飲んでいたなんて社内の人に
知られたら恐ろしい。



『‥‥美味しいです。珈琲なんて
 どれも同じだと思ってましたが、
 ほんとにさっぱりして美味い‥』


『それは良かったです。
 疲れた時はこうして何も考えず
 ゆったりと過ごすのが1番ですよ。 
 誰と過ごすか何処で過ごすかは
 自由ですから。』


マスター‥‥



『自由に生きてもいいんですかね‥』


『勿論です‥‥。ありきたりですが、
 伊野尾さんの人生は一度きり。
 時間の使い方次第で見えなかった
 生き方が見えるのではないですか?』


2人のほっこりとした時間のやりとりを
横で眺めながら聞いていると、
生クリームを絞ったウィンナー珈琲を
目の前で作ってくださった。



『はい、霞さん。
 熱いから気をつけてくださいね。』


「ありがとうございます。
 とてもいい香りで落ち着きます。」


まずは一口かき混ぜずにカップの
ふちに唇をつけて珈琲を啜ると、
唇についた生クリームの甘味が
珈琲と合わさってとても美味しく
感じられた。


『フッ‥‥まだついてる。』


「えっ?‥‥あ、ほんとですね。
 甘くて美味しいです。」


『連れてきてくれてありがとう。
 言ったとおりリラックス出来た。
 それに久しぶりにこんなにも
 穏やかな時間を過ごせた。』