電話応対が悪かったのならどれだけでも
会社の為に頭も下げれるし謝れる。


今日はただ視線がぶつかっただけ。


ただそれだけなのに、いきなり
頬を思いっきりぶたれるなんて
思っても見なかった‥‥


『翔吾さん!』


『これ以上我が社の業務を妨げる
 なら警察もお呼びしますが
 それでもまだここに居て
 お帰りになりませんか?』


ジュニアの表情が後ろからだと
全く見えないけれど、声のトーンが
低くて怒っているのはさすがに分かる


『チッ‥‥‥分かったわよ。帰るわ。』


女性が舌打ちするのなんて
初めて聞いたかもしれない。


高級そうな服、美しい容姿やスタイルを
持っていながらも、品のない行動に
勿体無いとさえ思う


コツコツと響くまヒールの音が
遠ざかり聞こえなくなると、
緊張していたのか怖かったのか、
私はそのままそこに座り込んで
しまった



『井崎さん‥‥巻き込んでしまって
 すまない‥‥。痛かったし
 怖かっただろう?』


受付のカウンター側に来たジュニアが
座り込んでいた私を腕の中に
抱き締めると、急に現実に戻った
ような感覚に瞳から涙が溢れた


『‥‥ほんとにすまない。』


腕の中で横に何度も首を振るも、
涙が止まらず、ジュニアはより
力を込めて抱きしめてくれた


その後、総務の蓮見さんに
連絡をしてくれ、古平さんが
駆けつけてくれると、私を医務室に
連れて行ってくれ、佐藤さんが
戻られるまで受付を変わってくれたのだ


「古平さん‥‥すみません。」


『いいのよ。詳しい事情は分からない
 けど、今はここで休んでいいわ。』


「‥‥ありがとうございます。」


頬を冷やす小さめのアイスバックを
枕に置き、横向きにベッドに寝ると
また涙が溢れてしまった


『心配いらないわ。あなたは
 何も悪くないんだから。
 終了までここにいて。いいわね?』


何度も頷くと、布団をかけてくれ
古平さんは行ってしまった。


ジュニアは大丈夫なのだろうか‥‥


婚約者の方に相当冷たい応対を
されていたし、あの時私を抱き締めた
腕が震えていた気がする


巻き込まれたといえばそうなのかも
しれないけれど、どうすれば
良かったのかも分からない


そんなことを考えていたら
緊張と疲れからか暫くしたら
いつの間にか眠ってしまっていた



「‥‥‥‥ん」




『起きたか?』



えっ?