『うん‥‥どうしてるかなって
 気になってたから。元気?』


お互い平日は電車で帰るので、
一杯だけ白ワインをいただき
亮さんと乾杯を軽くした。


「元気です‥‥‥表向きは。」


一口ワインを口に含むと
グラスをテーブルにそっと置いた


仕事中は集中してるし、
大きなミスに繋がるといけないから
いつも通りこなせてはいるけど、
こうしたオフの時間に筒井さんが
いないということを毎日思い知らされ
思いにふけってしまうのだ。


フランスは寒くないですか?
体調は崩していませんか?
そちらの空からも同じ星空は
見えていますか?


こう言ったことを遠くにいる
筒井さんに向けて心の中でいつも
思ってしまう


『そっか‥‥。それなら尚更
 今日誘ってよかったよ。
 とりあえず食べようか?』


「はい、美味しそうですね。
 お腹ペコペコです。」


パスタやピザをシェアして食べ、
亮さんとくだらない話や、最近の
近況などを話し合い時間が
あっという間に過ぎていく



『‥‥‥まだ‥滉一に会いたい?』


えっ?


少しだけ寂しそうに笑う亮さんに、
本当のことを言ってしまいたい気持ちを
抑えて小さく首を振った



「筒井さんはいつ帰って来れるか
 分からない自分を待つツラさを
 私には感じてほしくないから、
 あの日別れを告げようとしました。
 それなのに、私が忘れたくないから
 筒井さんのことを思う気持ちだけは
 無くしたくなくて子供みたいに
 我儘を言ったんです。」


『井崎さん‥‥それはきっと
 本音じゃないよ‥‥。
 井崎さんはまだ若いから、
 滉一のことを待つ時間よりも、
 井崎さん自身の時間を大事にして
 欲しかったんじゃないかな‥』


亮さん‥‥‥


「私‥‥やっぱり筒井さん以外は
 好きになれないんです。だから、
 大人になった私が楽しみと
 言ってくださったので今は
 やれることを一生懸命
 頑張るしかないと思います。
 そしていつかまた会えた時に、
 その姿を1番に見せたいです。
 寂しくて泣いてばかりの私だと
 心配させてしまうと思いますから。」


筒井さんに将来
他の恋人ができるかもしれない‥‥
それでもその時に泣いてしまう
私ではいたくない。
一瞬でも私と過ごした時間が
楽しかったって思って欲しいから。


『井崎さん変わったね。
 綺麗になったし強くなった。』


「本当ですか?
 お世辞でも嬉しいです。
 ありがとうございます。」


駅に着くと亮さんが、
優しく頭を撫でてくれた。


いつも気にかけてくれて、
話を聞いてくれたりこうして
会ってくれたりと、亮さんは
兄のような存在になっている気がする



『お世辞じゃないよ。
 滉一にも今すぐ見せたいくらいさ。
 また連絡する。気をつけてね。』