何処から菖蒲にその情報が
回ったのか分からないけど、
顔を変に赤らめる私を見て小さく
溜め息を吐いた。


『最強のナイトがいなくなった途端って
 感じよね?霞は元々綺麗だもの。
 で?また断ったの?』


「‥‥うん。」


綺麗なんかじゃない‥‥。
受付に立つ以上は、身なりを整えて
メイクやネイルなどは清潔感や品が
出るように心がけてはいるけど、
普段なんてスッピンに近いし、
服だってカジュアルの物の方が
着やすくて好きだ。


菖蒲の方が美しい黒髪の
ロングストレートで顔立ちも
綺麗だから入社式の時から
美人だなってずっと思ってる


『もう半年以上経つんでしょ?
 そろそろ前を向かないと‥』


「うん‥‥分かってる。」


筒井さんに待ってて欲しいなんて
言われてはないし、私が勝手に
忘れたくないから想ってますと
伝えたままの恋だ。


あの星空の下で最後に何度も
優しく抱いてくれたことを
今でも忘れたくなくて覚えてる。


未練がましいと言われたらそれまでだ。



それぐらい私の中の筒井さんの存在は
誰にも入り込めないくらい大きい。


向こうで、筒井さんのことを笑顔に
して支えてくれる人が出来たら
仕方ないって伝えた。
その時は言って欲しいとも‥‥


心の奥底ではそんな連絡が来たら
相当落ち込むと思うけど、
それでも想うだけなら自由だ。


私にも筒井さんの存在を超える
誰かが現れるかもしれない。
だからその時までは自分の中に
芽生えたこの初恋をまだ終わらせたくは
なかった。


『私はさ‥霞がツラクないなら
 いいんだよ?だけど親友として
 幸せになってほしいって思ってること
 は忘れないで?』


菖蒲‥‥‥ありがとう
ちゃんと伝わってるよ‥‥


その日も花野さんの指導を
根気よく行う佐藤さんを心配しつつ
1日の受付業務をこなした後、
着替え終わった私は会社近くの
イタリアンレストランに向かった


『井崎さん、こっち。』


「亮さん!こんばんは。」


スーツ姿の亮さんを見つけると、
席に向かい椅子に腰掛けた。


筒井さんが旅立たれてからも、
亮さんとは月に1、2度こうして
会って一緒に食事をしているのだ


心配して誘ってくれてるのは
すごく伝わるけど、話やすくて
楽しいから私も甘えてしまっている


『お仕事お疲れ様。
 適当に頼んでまたシェアしようか?』


「はい、お任せします。」


筒井さん達行きつけの
イタリアンレストランに来るのも
3度目となり、前回は蓮見さんと
古平さんも含めた4人で食事をした



「今日はどうされたんですか?
 急なお誘いでビックリしました。」