ジタバタと動いていた私は、
懐かしくも、二度と呼ばれることのない
と思っていた自分の名前に、
どんなことでも我慢できていたのに、
瞳に涙が滲んだ


『少しだけ話をしてもいいか?』


声を出すと涙が溢れてしまいそうで、
何度も首を縦に振ると、筒井さんが
私の短くなった髪を優しく撫でた



『俺がお前に別れたいと告げたのは、
 事故にあって、何も出来ない自分が
 このままお前のそばにいて
 守れる自信がなくなったからだ‥。
 両親と妹を事故で亡くしたことと、
 今回の事故のことが重なって
 毎晩何度も事故にあう夢に見る‥‥。
 そんな状態が続くと思ったら、
 お前と向き合うのからも逃げて
 1人の方がラクだと思ったんだ。』


筒井さん‥‥


私を抱き締める腕の力が強くなり、
堪えていた涙が瞳から溢れてしまう



『最初はそれが正しいと思ったのに、
 結局眠れない日が続いてた時に
 お前が尋ねてきてどうでもいい
 話をしたんだよ。』


あっ‥‥
まさか雨が降ったあの日のこと?


やっぱりどうでもいいって
思われたよね‥‥。
あんなにやる気出して尋ねたのに、
雨に降られて恥をかいたのを思い出す



『前にさ、荒れてた時にマスターに
 同じようなこと言われて救われたの
 を思い出したよ。
 そしたらその日は嘘みたいに
 眠れたから驚いた‥』


たまらなくて筒井さんのスウェットに
しがみつくと筒井さんが私から
離れ私の頬に手を触れさせて
涙を拭った。


「良かった‥‥私が少しでも
 筒井さんの役に立てて‥‥
 ほんとに‥‥良かった‥‥」


『自分からお前を傷つけて
 別れを告げたのに、今更お前を
 手放したくないなんて言えることじゃ
 ないけど、叶うならもう一度
 俺のそばにいてくれないか?』



寂しそうに私を見下ろし笑う顔が、
以前の優しい筒井さんと同じで、
また瞳から涙が溢れる。


もう一度片思いから始めようと
決めて前を向いてきた。


いつかまた筒井さんに好きになって
貰えるように私らしくいようって。



「これ‥‥夢じゃ‥ないですよね?」


寝転んだままだと夢なんじゃないかと
不安になり、体を起こすと
筒井さんも同じように体を起こし
私の頬を両手でまた包んだ



『もう二度とお前を傷つけない‥
 だから‥‥ここからまた一緒に
 始めさせて貰えないだろうか?』