テーブルの上にマグカップを置くと、
筒井さんがお礼を言ってくれたあと
静かにそれを手に持ちゆっくりと
口に含んだ



『悪かった‥連絡もなしで尋ねてきて』


「いえ‥‥驚きはしましたけど、
 ちゃんとご自分の事を大切に
 されてください。違っていたら
 申し訳ありませんが‥‥その
 ぐっすり眠れていますか?」


筒井さんの事だから、
仕事中は多分無理してでもこなして
いるから、疲れは溜まってるのに
休めていないんだと思う。


ずっと筒井さんのことを見てきたから、
鈍い私でも流石に分かる。



まだ事故のことがツラいなら、
私には見守ることしか出来ないけど、
何かやれることがあれば助けたい


今までも何度も私のことを
助けてくれた大切な人だから‥‥


『‥‥‥お前は優しいな。』


ドクン


マグカップを見つめていた筒井さんが、
わたしの方に視線を向けると小さく
笑った気がした。



『俺にいきなり最低なこと言われても、
 こうして前を向いて過ごしてる。
 散々待たせた挙句、
 自分勝手にお前との
 関係まで終わらせて、傷つけた。
 それなのにまたこうして会いに
 来たのに追い返すことすら
 しないなんてな‥‥』



筒井さん‥‥


今まで筒井さんの知らない顔を
沢山見てきたけど、もしかしたら
この弱さを出してる筒井さんが
本当なのかもしれないと何故か
思えた。


人間誰でも歳を重ねて成長していく
ものだと思うけど、根本的な弱さの
スイッチは入ってしまえばいくつになっても出てくる気がする



「私‥‥前も伝えましたが、
 筒井さんと過ごした時間は
 全部幸せだったんです。なので、
 憎んでもいませんし、今後も
 そういった感情を向けることも
 ないです。別れを告げられた事は
 勿論悲しかったですが、無理して
 頑張って付き合うものじゃ
 ないですし、私はこんな筒井さんを
 見れても幸せですから。」



『はっ?こんな情けない俺を?』


「はい。だって誰も知らない筒井さんを
 見れてるんですよ?それってかなり
 貴重でお得な気がしてますから。」


私も冷えた手をマグカップに添えて
温めると、温かいお茶を口に含んだ。


『フッ‥‥‥。俺もお前に会えて
 幸せしかなかったな。
 傷つけてほんとに‥痛っ!!』



体を乗り出しソファに座る筒井さんに
近付くと、鼻を思いっきり摘んだ


わたしがこんなことしたからか、
目を開いて驚いていたけれど、もう一度
ギュッと摘むと頬を手で包んだあと
唇にキスをそっとした。