16階から1階まで降りる運動は、
思ってた以上によくて毎日続けていると
時々筒井さんに会ってしまったけど、
そんなことでもお顔が見れるだけで
私はとても幸せだった。


「はぁ‥‥寒い‥‥」


温かい食堂から外に来たくらい寒い
非常階段スペースにいつものように
来ると、すぐに扉が開きそこから顔を出した立田さんに、靴を出す前で良かったと思えた。



『お疲れ様、やっぱり井崎さんだった。
 ここで何か用事とか?』


「お疲れ様です。いえ‥‥
 そういうわけじゃないんです。」



なんとなく階段で降りる運動をしてる
って言いづらくて濁してしまった。


「立田さんはどうされたんですか?」


あれから時々何度か食堂で顔を
合わせていた為、少しずつ話しを
していたから話しやすくていい先輩と
言っていた菖蒲たちの気持ちがすぐに
分かった。


落ち着いてて、面倒見が良さそうだし、
自然体で誰とでも話してくれるから、
私もあまり緊張しないでいられたのだ



『あのさ‥‥井崎さんって今、
 付き合ってる人とかいる?』


「えっ?‥‥あ‥‥今はいませんが
 好きな人はいます。」


その時重い扉が開けられて、
筒井さんが私と立田さんを見た後
小さくお辞儀をしたので、2人で
丁寧に頭を下げた。


『お疲れ様です。ここは寒いから
 立ち話もほどほどにな。』


『はい、ありがとうございます。』


一瞬視線がぶつかったけど、
すぐに俯いた私は、筒井さんが声を
かけてくれたのに頭を下げることしか
出来なかった。


1人だったら何か話せたのに残念だな‥


立田さんが悪いわけではないのに、
階段を下ってしまう筒井さんの足音を
寂しいなんて思ってしまう



『ビックリした‥‥まさか筒井さんが
 来るなんて。
 あ‥‥えっと‥‥話が途中になって
 しまったね。そっか‥好きな人が
 いるのか‥‥その人は勿体無いな。』


えっ?


『こんな綺麗な人に思われてるなんて
 早く気付いてあげたらいいのにって。
 羨ましいよ。』


「そんな‥‥私の片思いですから。
 綺麗だなんて言ってもらえて
 お世辞でも嬉しいです。
 ありがとうございます。
 寒いのでこのまま良ければ
 話しながら階段で降りませんか?」


じっとしてるのも寒くて震えて
しまいそうで、時間もなくなるし
体を動かしたかった。


企画は確か9階だった気がするから
そこまでならすぐだし‥‥


『いいよ、行こうか。』


「はい。」


そのまま立田さんと話しながらゆっくり
階段を降りて行き、総務に寄ると
伝え私は7階までヒールで降りた。