アルバイトの帰りに傘をささずに
帰ったことを筒井さんがどうして
知っているのだろう‥‥


確かにずぶ濡れで帰ったから
風邪を引いたのは本当だけど、
今になってそんな前の話を
してきたことに驚いた



「あの‥‥ありがとうございます。
 今日はとても寒いですから早く
 お部屋に戻られてください。
 タクシーでちゃんと帰りますから。」


コートを着ている私はいいとして、
何も羽織らず出てきたのか、筒井さんの
方が体が冷えてしまう


体が冷えると寝つきが悪くなる‥‥
眠れてないって分かるほどに
顔色も良くないし、寝不足で
倒れてしまうと困る



『拓巳に何か言われてきたんだろう?』


ドキッ


PTSDのことは本人は自覚してない
から蓮見さんと亮さんがそう感じてる
だけって言ってたけど、わたしがここに
来たのはそれが理由じゃない‥


きっかけは蓮見さんと話したから
そういう気持ちになったけど、
本当にただ筒井さんに少しでも笑って
欲しかっただけなんだ‥‥


心の底から笑えていなかった筒井さんに
気付くことが出来なかったから。



「筒井さん」


『どうした?』


「私の事気にかけてくれてありがとう
 ございます。でもこれからはもっと
 ご自身のこと気にかけてください。
 人のことをいつも考えてくださる
 方は、自分の事もとても
 大切にできるはずですから。」


隣に立つ筒井さんに笑顔でそう
答えると、伸びてきた右手が
私の短くなった髪をクシャりと撫でた


『生意気だな。
 お前に説教されるなんてな。』


「そ、そうですよ。
 あっ‥タクシー来たので行きます。
 それじゃあ‥失礼します。」


筒井さんの手が頭から離れる時、
ものすごく寂しさを感じたけれど、
やっぱり会いにきてよかった‥‥


私のことはもうこれで気にしないで
体を治して元気になることだけに
集中してもらえるはずだから


最後にもう一度丁寧にお辞儀をすると
タクシーに向かって走った。


雨粒が窓を濡らす向こう側に見えた
筒井さんが霞んで見えないけれど、
こっちを見ているのは分かったから
もう一度頭を下げた。



筒井さんが早く元気になりますように‥
そう願いながら。