『本当にいいんですか?』


「はい、イメージ変えたくて‥。
 お任せしますのでお願いします。」


日曜日

家にいても色々考えてしまうからと、
久しぶりにヘアサロンを予約して
髪の毛を切りに来た


3年前に一度ロングだった髪の毛を
肩まで切ってからずっとまた伸ばして
いたから、気付いたら胸下まであるのが
当たり前になっていたスタイルを
ベタだけど変えたかったのだ


『分かりました。それでは
 もったいないのでヘアドネーション
 しませんか?』


「ヘア‥ドネーション?」


『はい。切った髪の毛を
 ヘアドネーション活動してしている
 法人や団体の元に寄付をして、様々な
 理由でウィッグを必要としている
 方々に使われるんです。
 井崎さんは髪も綺麗ですし、長さも
 十分あるので問題なければ
 やってみませんか?』


初めて聞いたから知らなかったけど、
捨てるだけではなく、誰かの為に
役に立てるならと2つ返事で
お願いすることにした。


『あの‥もしよろしければご自分で
 切ってみます?』


「えっ!?
 そんなことしてもいいんですか?」



長い髪をゴムで何束にも分けて縛ると、
ヘアスタイリストさんが鋏をわたしに
差し出してくれた。


『私が切ることも出来ますが、
 時々、色々な思いを抱えて自分で
 切りたいという方も見えるんです。
 どうされますか?』


そうなんだ‥‥
私みたいに何かのキッカケで切る人も
いるんだと思えたらなんだか心が
軽くなっていく



「じゃあ‥せっかくなので。
 どの辺りを切ったらいいですか?」


『結んである位置から2センチほど上の
 辺りに真っ直ぐ鋏をいれて頂ければ
 大丈夫ですよ。指だけ切らないように
 気をつけてくださいね。』


なんだか緊張してきた‥‥


結び目の下を左手で掴み、
右手でお借りした鋏に指を通すと
鏡に映る自分を一度見てから、
深呼吸をして鋏を動かした。


初めて体験するような手の感覚と
ジャキっという音と共に切れた
髪の毛の束を目の前に持ち上げて
見つめる


「‥‥うわー当たり前だけど短い!
 ありがとうございます、なんだか
 スッキリしました。」


『良かったです。大切に送らせて
 いただきますね。』


スッキリしたのは本当だった‥



変わろうとしている気持ちを後押し
してくれたかのような出来事に
頭だけではなく心も軽くなった
気がしたから。


『‥‥いかがですか?』