何処か寂しそうな表情で遠くを
見つめる瞳に、何故か目の前にいる
人が遠くにいるような気持ちになる


「‥‥筒井さん?」


『‥‥ああ、少し考え事してた。
 悪いな。美味かったよ、ありがとう』


全て完食してくれ、空になった
タッパーに蓋をして渡してくれた時は、
いつも通りの優しい表情に
なっていたから気のせいかな‥‥


体だってまだ痛むかもしれない‥
私が来ることでゆっくり休めないと
いけないから、早めに帰ろう‥



ちょうど看護師さんが見えた時に、
また来ることを伝えて病室を
出たけど、やっぱり少し心配だ。



わたしが不安定になることなんか
頻繁にあるけど、筒井さんの弱った姿を
見たことがないから、どう対応する
べきか正解が分からない


普段どうりの方がいいとは思うけど、
変に明るく接してもおかしいし、
何も話さないのも不自然だ‥‥


もうすぐ退院だから、それまでに
自分の中のこの不安も無くして
おきたいな‥‥


次の週、お見舞いに行くことを伝えたら
退院前の検査や、仕事関係の人が来て
忙しいみたいで、病院には行けず、
退院される金曜日をあっという間に
迎えてしまい、仕事帰りにそのまま
筒井さんの家に向かうことにした。


前もって暫く泊まれるくらいの
荷物は運んでおいたし、亮さんにも
手伝ってもらって食料品の買い出しも
済ませておいたのだ


「お疲れ様でした。」


『ふふ、今日はいいことがあるのね?
 そんなに急いで帰る井崎さんを
 初めてみたわ。』


どんな顔して挨拶していたのか
分からないけど、会いたい気持ちが
勝ってしまっていたのだろう。


エントランスから出て急いで電車に
乗ると、車窓にうつった自分の
髪の毛が乱れていて手でそっと直す


今日の午前中に退院するって
聞いてたから、久しぶりのお家で
少しはゆっくり出来てるといいな‥


最寄駅で降りてからタクシーに乗り
マンションに到着すると、
カードキーを持っていたものの、
深呼吸をしてからインターホンを
鳴らした。


ガチャ


『‥‥おかえり。』


「筒井さん‥‥ただいま‥」


優しい笑顔で迎えてくれた筒井さんに
笑顔で挨拶すると、玄関に入れてくれ
そのままそこで抱き締められた


『片手で悪いな‥‥』


「大丈夫です。私が両手で筒井さんに
 こうして触れられますから。」


『フッ‥‥。頼もしいな。』