筒井さんの弱音なんて多分
初めて聞いたかもしれない‥‥


いつも考え方も大人で落ち着いてて、
わたしの方が甘えてばかり
だったから‥‥


「あの‥‥ご迷惑じゃなければ、
 退院してから少しの期間だけ
 その‥‥筒井さんのお家に通っては
 ダメでしょうか‥‥」


入院自体は2週間ほどで、あとは
自宅で安静にしつつリハビリを
していく方向らしいけど、片手だと
掃除とか大変だし、何より栄養ある
食事を食べて欲しい。


亮さんが時々ご飯は作ってたみたい
だけど、その亮さんも怪我されてるし
元気であるわたしが頑張る時だと思う


『ダメだ』


筒井さんの指を握っていた指先が
ビクッと震え、自分勝手な考えが
急に恥ずかしくなり俯いた


そうだよね‥‥‥
やっと日本に帰ってきたのに、
お家でゆっくりできないのはツラいはず


筒井さんのことじゃなく、自分本位な
考え方に今すぐこの場を去りたかった



「ごめんなさい‥‥今言ったことは
 その気にしないでください。」


『お前何言ってるんだ?』


えっ?


痛いであろう左手の指で私の手を
握られ、俯いていた顔をそっと上げる


『通うのがダメだと言ったんだ。
 毎日泊まるなら安心だろう?
 夜遅く毎日帰す身にもなれ。
 お前の優しい気持ちを無下にするわけ
 ない。ありがとう‥頼むな。』


筒井さん‥‥


その言葉に泣くつもりはなかったのに
涙が溢れてしまう。


『泣くな‥‥』


「痛っ‥‥」


伸びてきた右手で鼻を思いっきり
摘まれると、わたしの顔を見て
笑った筒井さんを見て私も笑った



週明けの月曜日、
筒井さんの国内本社出勤日が
連休開けから12月に変更と人事からの
メールで発表され、待っていたファンの
お姉様方が、食堂で話題にしているのを
菖蒲と聞いていた。


『大丈夫なの?』


「うん、暫くは入院だけど、
 落ち着いたらオンラインで少しずつ
 仕事をされるみたい。」


企業にとって必要な存在の筒井さん
だから、やっぱり長くは休めないみたい



『ビックリしたよね‥‥霞も。』


「うん‥‥」


私よりもきっと筒井さんの方が
受けたダメージが大きいと思う。


意識まで失って、思うように動かない
体や、痛む傷に耐えてるはずだし、
いくら個室だからといっても
家とは違って人の出入りも
多いからきっと体も休まらない


どれだけサポートできるか私には
わからないけど、筒井さんがゆったり
できるようにしてあげたいな‥



コンコン


『はい、どうぞ。』