「やっと行ったね」



「・・・ありがとうございました、先輩」



「ううん、いいのいいの。だけど、最後の一言は心外だなぁ。俺、唯ちゃんの事好きなのにー・・・」



唯ちゃんの方を向き、頬杖をつきながら不貞腐れる。



俺、結構アプローチしてきたんだけどな。



「・・・辻本 茉弘さん」



「!!」



唯ちゃんの口から辻本さんの名前が出てきて、思わずビクリと肩を揺らし、目を見開く。



唯ちゃん、なんでその事知ってるの?




「・・・反応した。やっぱりそうなんですね。知り合いの先輩に聞きました。雰囲気が私に似てるって」



知り合いの先輩・・・ね。



とんでもないことしてくれたな、そいつ。



「──うん、確かに似てるよ」



唯ちゃんの問いかけに、素直に答える。



確かに似ている。



唯ちゃんに会うまでは、あの時の子は辻本さんだって勘違いするぐらいには。



「・・・私、辻本さんの変わり・・・ですか?」



勘違いしてしまっている唯ちゃん。



これは──話した方が良さそうだな。



「・・・俺さ、昔とある女の子に会って一目惚れしたんだ。修学旅行で女の子達に逆ナンされてる時に追い払ってくれた子、なんだけど」



「!!」



「俺、その子の名前、“まひろ”って聞き間違えちゃってね。雰囲気も何となくその子に似てたから、辻本さんなんだって決めつけてたんだ。・・・だけど、辻本さんに聞いてもその事は身に覚えがないって言われてね」



「え・・・え・・・?」



手にしたペンでペン回しをしながら、淡々と口にする。



その言葉に、唯ちゃんは驚きと困惑で固まっていた。



「・・・唯ちゃんは・・・身に覚えない?女子に囲まれてた俺を、助けた記憶」



「・・・あ、ありますけど・・・えっ、なん・・・へ・・・?」



「ふふっ、戸惑ってる?俺、君に告白してるつもりなんだけど。一目惚れですって」




唯ちゃんの答えに、嬉しさでどうにかなってしまいそうになるけど、何とか落ち着いて言葉を続ける。



確信はあったけど、いざ本人から確認を取れると嬉しさが跳ね上がるな。



「え・・・私・・・?辻本さんじゃなくて・・・?」



「信じてない?俺、これでも結構本気なんだけど」



「ぁ・・・ぅ・・・えっと・・・あの・・・ちょっと待って・・・。ちょっと・・・今、頭、こんがらがってて・・・」



席を立ち上がり、手を前に出しながら俺から遠ざかる唯ちゃん。



俺はそれにつられるように立ち上がり、唯ちゃんの近くへと歩み寄る。



「ん?・・・もう1回言おうか?俺は“唯ちゃん”に一目惚れしてたの。わかった?」



段々壁際に後ずさっていく唯ちゃんを追うように距離を詰める。



壁際に追いやって、壁ドンをしながら顔を近づける。



「わ、分かりました!わかったからちょっと離れて・・・!!」



「ダーメ、離れてあげなーい」



そっぽを向き、俺と目を合わせない唯ちゃんに少しずつ近寄っていく。



「・・・先輩、楽しんでません?」



「ん?うん、唯ちゃんの反応可愛いから」



「っ・・・!!もう!!いいから早く作業しますよ!!」



そう言って俺の事を押しのけ、仕事に戻る唯ちゃん。



あーぁ、逃げられちゃった・・・。