まぁ、ケテケテが出るなんて嘘なんだけど。



「追いかけてる子の名前を叫びながら音を立てて追いかけてくるんだ。例えば──」



「唯〜!!」



「キャァァッッ!」



「っ・・・!?」


俺の言葉を遮るように聞こえてくる真白ちゃんの名前を呼ぶ声。



それを聞いた真白ちゃんは、酷く驚いたようで俺に抱きついてくる。



思いもしなかった行動に、俺は息を飲んだ。



「・・・じゃあねって声かけようとしただけなんだけど・・・驚かせた?」



「・・・え、一花・・・?」



近寄ってきたのは、恐らく真白ちゃんの友達なのだろう。




申し訳なさそうにしながら声をかけてくる女の子を見て驚いたように目をぱちくりさせている。



「ふぅん・・・唯もやるじゃん。じゃあね」



そう言ってそさくさと立ち去っていく女の子。



だけど、いまだに真白ちゃんは俺に抱きついたままだ。



相当驚いたんだろうけど・・・ちょっとだけ照れるな。



空いてる手で口元を隠しながら、そっぽを向く。



「・・・真白ちゃん、抱きついてくれるのは嬉しいんだけど、さ・・・。まだ人いるし、さすがに注目されちゃうよ?」



「?・・・っ!?」



俺が声をかけると、ようやく俺に抱きついていることを理解した真白ちゃんは、勢いよく離れた。



「あっ、あの・・・すみませ・・・!?」



これでもかってほど顔を真っ赤にしてアワアワと慌て始める真白ちゃん。



可愛い・・・耳まで真っ赤だ。



「ううん、いいよ。驚いたんでしょ?」



「は・・・はい・・・まさか一花がいるとは思ってなかったんで・・・」



「まぁ、俺的には嬉しかったし。怖いならいつでも抱きついてきていいよ?ほら」



「なっ・・・だっ、抱きつきませんよ!!」



茶化すようにしながら、真白ちゃんに向かって両手を広げる。



だけど、真白ちゃんはふいっと視線を前に向けて歩き出す。



うーん、つれないなぁ。



「真白ちゃん、待ってよ」



そう言って、先に歩いていってしまった真白ちゃんの後を追いかける。



それでもなお、真白ちゃんは歩くスピードを緩めない。



「・・・あ、ケテケテ」



「っ!!」



ビクッと肩を揺らしながら立ち止まる真白ちゃん。



やっぱり、意地張ってても怖いのは怖いんだ。



微笑ましく思いながら、真白ちゃんの隣へと並び立ち、彼女の手を握る。



「っ!?な、なんで手繋ぐんですか!?」



「んー、その方が怖くないかなーって思って」



「別に怖くなんてありません!」



そう言って俺の手を振り払う真白ちゃん。



ほんと、前も思ったけど結構力あるんだよな。



「違う違う、俺が怖いの。だから、手、繋いでくれない?」



「・・・・・・学校出るまでですからね」



そう言って、控えめに差し出される真白ちゃんの手。



俺は、愛おしく思いながらその手を取った。



「・・・ほら、帰りますよ」



「はーい」



真白ちゃんに急かされながら、意図的にゆっくりと歩き出す。



少しでも、長く手を繋いでいられるように。