バスに乗り、真白ちゃんの家まで相合傘をしながら帰る。



その間も、会話はしていたけど・・・真白ちゃんはどこか緊張しているような面持ちだった。



そんな真白ちゃんを横目で見ながら、歩いていると、“真白”と書かれた表札が見えてくる。



「真白ちゃん家、ここ?」



「は、はい。そうです」



へぇ・・・ここなんだ。



俺ん家からそんなに離れてないじゃん。



俺の家から歩いて30分もかからないぐらいの所だったから少し驚いている。



「ありがとうございました、先輩──って、肩濡れてるじゃないですか!」



「え?・・・あー・・・」



軒下に移動した真白ちゃんが俺の事を見て声を上げる。



自分の肩を見てみると、傘をさしていたのに濡れていた。



真白ちゃんの方に傾けてたからちょっと濡れちゃったのか。



「タオル貸すのでちょっと待っててください。すぐ取ってくるので」



「別にこのくらい──」



「唯ー?傘なかったけど大丈夫だったー?」



俺が大丈夫だと伝えようとした時、ガラッと音を立てて玄関が開く。



それと同時に、真白ちゃんにそっくりな人が顔を出した。



「あらヤダ!!送ってもらったの!?イケメンと相合傘なんて、唯もやるわね〜」



「お母さん!ちょっと黙ってて・・・!」



優しそうな雰囲気で真白ちゃんと話をするお母様。



「あら、肩が濡れちゃってるわ。唯、タオル持ってきてあげて」



「言われなくても持ってくるから!」



「え、いや。このくらいなら大丈夫なんで──」



俺が言い終わる前に、真白ちゃんはパタパタと家の中へと入っていってしまう。



これは・・・帰れないパターンかな?



「唯を送ってくれてありがとね。えっと・・・お名前は?」



「あ、3年の山崎 優(やまざき ゆう)です」



「優くんね、そこだと濡れちゃうから中に入って。ほらほら」



「あ、あの・・・」



俺の背中を押し、家の中へと入れてくれるお母様。



想定していなかった展開に、思考が追いつかない。



「も〜。唯ったら、こんなイケメンな彼氏いるなら言ってくれたらいいのに〜」



「あ、いや・・・俺、真白ちゃ──唯ちゃんの彼氏じゃないです。・・・“まだ”」




「まだ!?じゃあつまりは・・・!!」



「・・・まぁ、そうですね」



お母様に向かってこの言い方は失礼なんじゃないかなと思いつつ、本音を口にする。



勘違いさせたままなのも嫌だけど、付き合いたいって気持ちはあるし・・・この言い方がいいと思ったのだ。



「ふぅん・・・で、唯のどこが好きなの?」



「え・・・えっと・・・中学ん時に、助けてくれて・・・その時に一目惚れして・・・好きなところはいっぱいあるんですけど、普段は凛としてるのに、時々見せる気の抜けた表情とか、ツンケンしてるところとか・・・ですかね?」



「ヤダ、ゾッコンじゃない」



お母様の問いかけに素直に答えると、俺の背中をバンッと勢いよく叩く。



うぉっ・・・意外と力強いな・・・あの力の強さは母親譲りか。



そんなことを思っていると、タオルを持った真白ちゃんが俺の元へと走ってくるのが見えた。



「まぁ・・・そうですね」



その姿を見て愛おしさが溢れ出しきて、思わず笑みを浮かべる。



それを見たお母様は目を見開きながら俺の事を見ていた。



「先輩、タオルどうぞ」



「あっ、ありがとう、真白ちゃん」



差し出されたタオルを受け取り、自分の肩を拭く。



濡れた範囲も狭いし、すぐに乾きそうだ。



「じゃあすみません、俺これで失礼しますね」



「あら、夕ご飯食べていけばいいのに」



「家帰ったら食べますんで。・・・タオル、ありがとう。またね」



タオルを真白ちゃんに渡し、お辞儀をして家を出る。



予想外の自宅訪問だったな・・・。



そんなことを思いながら、自宅までの道を歩き出した。