「君たち、もう下がっていいよ。あとはサインだけだから、私がやっておく」
「ヴァール国王陛下、では失礼します」

 癖ひとつないサラサラの肩までの金の髪をハーフアップのお団子にし、かけてる眼鏡からリーフグリーンの瞳を覗かせるのは、この国フリーデン王国の王、ヴァールだ。側には薄い蜂蜜色の毛先だけがウェーブしてる腰までの髪を三つ編みハーフアップにし、燃えるようなスカーレットの瞳を持つ妻である正妃プリンツェッスィンが座っている。それがさっきまで部屋にいた家臣たちの把握してるところだった。

「おい、もう誰もいないし扮装魔法解いていいぞ」
「その姿と声色で汚い言葉使わないでくれる? 気持ち悪いから」

 ヴァールは『おい』など言うことは絶対にない。まして愛するプリンツェッスィンに対しては天地がひっくり返っても言わないだろう。このヴァールに見える男は、グレンツェンが扮装した姿なのである。声色までそっくりでどこからどう見てもヴァールにしか見えない。プリンツェッスィンも愛する夫に、もとい見える者に気持ち悪いと言うはずもなく、こちらも主人に扮装しているシャイネンであった。

「おい……愛する夫に気持ち悪いとか言うなよ」
「あら、ごめんなさい? 貴方のことは仕事の相棒だと思ってたわ?」
「へぇ? ただの仕事の相棒のちんこにパコパコされて、あんあん良い声で啼いてるのはどこのどいつだよ。しかも双子まで孕んで産むとか、お前って気持ちよくされれば何でもいい淫乱雑魚まんこなの?」
巫山戯(ふざけ)た下品なこと言わないでくれる? あんだけ腟内(なか)出しされれば嫌でも孕むわよ。大丈夫、自分の子は誰が父親でもとーっても可愛いから。そうよ、早くあの子たちのところへ行っておっぱいあげてこないと」

 部屋を出ようとくるりと向きを変えたシャイネンの片方の腕をグレンツェンが掴み、机の両側に床までの引き出し、所謂袖机がついているアンティークの事務机に押し倒す。

「何すんの。どいて」
「きゃあやめてくらい言えないのかよ」
「言うわけないでしょ。どかないと殺るわよ」

 シャイネンはまるでゴミを見るような目でグレンツェンを見上げた。

 しかもまだグレンツェンは扮装を解いておらず、ヴァールに押し倒されたシャイネンという図になっているのだ。つまり普段彼女が扮装してる、赤褐色の肩甲骨までの緩やかなカーブを描く髪を結い上げ、深緑の瞳を持つ若き女性がこの国の王に組み敷かれてるように見える。

 グレンツェンは、服もプリンツェッスィンの衣装から普段の侍女服になったシャイネンのスカートの下に手を忍ばせ、彼女の太ももを撫で上げた。

 平然を装うとしてるシャイネンだが、目の前の幼馴染には(わず)かな変化も感じ取られてしまう。

「体は素直なのにな……」
「煩い。本当に殺してやろうか?」
「そうだな、今から俺にイかされなければお前の好きにしてもいいぜ? 久しぶりに勝負するか?」

 双子を妊娠して育児を始めるまで、シャイネンの暗殺術の練習相手はグレンツェンがしていた。昔から二人は紛れもない仕事の相棒であって、今は夫婦なのである。

「受けて立つわ。私が勝ったら私の言うこと一つ聞いてもらうからね」
「いいぜ。俺が勝ったら俺の言うこと一つ聞いてもらうからな」

 無音のゴングが鳴り、二人の意地と意地のぶつかり合いが始まった。

 グレンツェンは片手をシャイネンの太ももに手を添え、優しく撫で上げる。お尻を通り、背筋、胸と這わせた。そして両手でむにむにと母乳が出てから二カップ大きくなった女性の中でも大きな方の胸を弄ぶように揉んでいく。グレンツェンの、今はヴァールだが男のゴツゴツとした大きな指が易々と沈み、シャイネンの胸の形を変えていった。そしてシャツの前ボタンを手早く外され、上の下着が顕になる。

「お前……もう少し可愛い下着ないのかよ」
「煩いわね! 実用面で下着を選んでんの! 可愛いのは生地が蒸れやすいのが多くて、母乳漏れする今は着れないのよ!」
「ふーん。じゃあ、今度可愛いけど蒸れない下着買ってやるよ。知ってるか? 姫さん、下着ブランド立ち上げるみたいだぜ? 坊から聞いた。ほらアンジュ様って爆乳じゃん? あんまりでかいから可愛い下着が少ないって泣いてるらしいし、逆に姫さんは可哀想なくらいツルペタだろ? これもあんまり成人女性向けのサイズがないみたいでな。そんで、なければ作ればいいと今プロジェクトを立ち上げてるらしい。あ、これ機密事項だから秘密にしておけよ」

 グレンツェンはサプライズでシャイネンにプレゼントを殆どしたことがないが、必要なものはちゃんと買って与える主義の男であった。妻が困ってるのを知り、プリンツェッスィンだったら望むような下着を作ってくれるだろうと提案するつもりなのだ。勿論それはシャイネンの為だけにならず、世の母達の希望の光になる。

「機密事項なら言うな。口が軽いのは影として最低なんだからね」
「お前だから言うんだよ。お前は姫さんが不利になることはしないし、俺が言うのもなんだが口が堅い。仕事の相棒で夫の俺にも言わないことあるだろ。口が堅いのも良いけど、少しは相談して欲しいな」
「ちゃんと必要なことは言ってるし、相談してるわよ……」
「そうか? ならいいけど」

 そしてするりと上の下着を取り外し、胸を直に揉みしだきながら、シャイネンの唇を自分のそれで塞いだ。

「ん……。ふぁ……んんっ」

 遊んでそうな見た目によらず妻以外とは致さないグレンツェンは、勿論キスも妻としかしてない筈なのに、お世辞抜きにそれが上手く、それだけでシャイネンは体の芯から湧き上がるような深い絶頂を与えられる。

 キスをされトロンとした表情でグレンツェンを見上げ、それは夫の男の肉棒を硬くするには容易(たやす)いものだった。

「本当お前ハニートラップだけはやんなよ……」
「やらないわよ……。姫様に好きな人と以外はキスもそれ以上のことも禁止されてるわ」
「へぇ……。好きな人以外ね」
「は?! 勘違いしないでよね! あくまでアンタは仕事の相棒で、私の仕事も理解してるし、子供作っても仕事に支障がでないからそうしてるだけよ!」

 ぷいっと背けた顔は赤く、シャイネンが照れてることは手に取るようにわかる。

「本当お前素直じゃなくて可愛くねーな。ま、それは俺も同じか……」

 そしてシャイネンの両腿の裏に手を添え、持ち上げた。いつの間にか下の下着も脱がされ、キスと愛撫でとろとろに溶けた果肉が顕になる。

「イったら負けだからな?」

 さっきキスでイかせたばかりなのに、宣戦布告をしたグレンツェンは秘所をれろれろジュルジュルと啜りながら、自身のゴツゴツした長い指を果肉に埋め抽挿した。

 シャイネンはイくのを涙目になりながら耐えていく。もう何回もイってるのに、負けを認めさせてくれず、何度も何度もイかされた。

「お前……分かってる? 今夫にイかされてんじゃねーんだよ。坊にイかされてんの。何が好きな人以外だよ、とんだ浮気まんこの癖によー言うわ」
「ちが……!」
「何が違うんだよ」

 するとグレンツェンはシャイネンより一回りは上の家臣の一人に扮装する。

「ずっと君のことを見ていたよ……。可愛い正妃つき女官だなと。是非私の妻になってはくれないか? かれこれずっと私のオカズは君だよ。早く君と一つになりたい。いいだろう?」

 その家臣の声色と口調で、シャイネンを口説いた。実際その家臣はシャイネンに気がある素振りを見せていて、彼女は内心嫌がっていたのだ。

「何締まってんだよ……。あーイラつく」

 声色をグレンツェン本人に戻したあと、また違う今度は太った中年の家臣に扮装する。

「はぁはぁ。君って白くてハリがある肌してるよね。妻とは大違いだ。胸も大きいし、顔も可愛い。私の妾にならないか? 悪い扱いはしないよ」

 扮装して口説きながら、更に指を増やし抽挿も早めていった。秘芽をれろれろと剥きながら、ぷっくり出てきたそれに歯を当て噛み付く。

 グレンツェンは達してしまうシャイネンを苛立ったように睨みつけた。

「本当、何なんだよ。快楽に弱すぎじゃねーの? こんなゆるゆるまんこ、ハニートラップなんて出来るかよ。あームカつく腹立つ! 夫以外にイかされてんじゃねーよ!」

 大声で暴言を吐いたグレンツェンをトロンとした目でシャイネンが見つめる。

「違うの……」
「は? 何が違うんだよ」
「違うの。扮装しててもグレンだって分かってるし、グレンが……グレンが本当はそう思ってくれてるの凄く嬉しくて……イっちゃうの」
「は?」

 言ってる意味が分からないとばかりにグレンツェンが眉を(ひそ)めた。

「だって……ずっと見ているのも、私をオカズにしてるのも、胸が大きくて可愛いって思ってるのも、グレンでしょ?」
「は?!」
「違う……の?」

 急に甘えるような声を出し口調も優しくなりデレるシャイネンの破壊力は満点で、グレンツェンは真っ赤になってしまう。可愛いシャイネンの姿を見て、もう嘘や意地を張るのをやめ降参した彼は愛する妻に唇を落とし、その輝くような銀色の瞳を見つめた。イかされ続け、シャイネンの扮装魔法は完全に解けてしまい、元の姿の銀髪銀目になってしまっていたのだ。

 またグレンツェンもいつのまにか元の黒髪黒目になっていた。扮装魔法は集中力が必要な魔法で、気持ちが乱れると解けてしまうのだ。

「私はグレンにしかイかされないよ?」
「あーそう。ならいいけど……」
「ヤキモチ妬いてたの? グレン可愛い」
「あーもう! 心臓に悪いからデレるのやめろよ! 頭おかしくなる! お前にこれ以上惚れたら……お前を失ったとき心臓止まっちまうだろ」
「私も……グレンが死んだら心臓止まっちゃう。だってずっと好きだったのよ? シュピオーンの村にいた時から、貴方が好きだったの。大好きな幼馴染のお兄ちゃんに、愛されて、子供ももうけて……。すっごく幸せよ。でもね……貴方を失ったらつらくて生きていけないの」

 シャイネンは目を潤ませながらグレンツェンを見つめる。

「俺も……。お前が小さい時からずっとお前だけ好きだった。どっからか村に流れ着いてきた夫婦から生まれた言わば除け者で虐められてて、可哀想な奴なのにタフだし……。気になって話しかけるようになってから俺の後ずっとついてきて、ヒヨコみたいだった。めちゃくちゃ可愛くてつい意地悪言っちゃうのに馬鹿みたいにまだついてきてさ。でも……昔は笑ってたのに、村の皆が皆殺しにされてから、お前は笑わなくなったんだ。何か諦めたような顔になって……。でも、姫さんがそれを救ってくれた。俺じゃ救えなかったけど、お前が元気になったのが一番嬉しい」

 グレンツェンはシャイネンにふにゃりと笑いかけた。今まで心の内にあったものを、言えた彼はスッキリした顔をしている。

「私も、グレンのこと救えなくてごめんね。でも若がいてくれたから、グレンが前みたいに明るくなってくれた。若には感謝しかないわ。でもね……私は姫様だけに救われたわけじゃないのよ。貴方が側にいてくれたから、安心して笑えるようになったの。貴方がいないと生きた心地がしないわ」

 シャイネンは手のひらを伸ばし、グレンツェンの頬に添える。それに応じるかの様に、彼も彼女の手の甲に自身の手を添えた。

「ふーん。じゃあ俺たち似た者夫婦なんだな。俺もお前が隣にいてくれたから、安心して前みたいに明るくなれたんだ。ありがとう、シャイネン」
「どういたしまして。そしてありがとう、グレンツェン」

 二人はお互いを慈しむように笑いあう。

「お前、今日から、いや今から覚悟しろよ? もう意地を張るのはやめたから、どろどろに愛してやるよ」
「ふーん。じゃあ私も意地を張るのをやめるわ。貴方のそのどろどろの愛情全てに応えるから」
「本当お前って……可愛いやつ。愛してるよ、シャイ」
「私もグレンが大好き、愛してるわ。これからいっぱいいーっぱい可愛がってね?」

 二人は今までの意地の張り合いなどなかったかのようにお互いを求め合うキスを交わした。

 (わだかま)りがなくなったこの一組の夫婦は毎日キスをし、毎晩抱き合い、愛を囁き合うようになる。

 あんまりにもの激変に、プリンツェッスィンとヴァールたちは驚きふためいた。だが、やっと素直になった自分の従者たちを微笑ましく、また優しい眼差しで見るのだったのだ。