ヘクセ・フクス侯爵令嬢とその配下は城の牢屋に入れられた。

「どんな罰でも受けますので、最後にプリンツェッスィン王女殿下に謝罪をする機会を下さい」

 ヘクセははらはらと泣きながら懺悔をし、その様子を知らされたゲニーも仕方ないかとプリンツェッスィンにその旨を伝えることにする。

 プリンツェッスィンもヘクセのことを気にかけていて、快く了承し彼女の入ってる牢屋へ出向いた。

「プリンツェッスィン王女殿下! 大変に申し訳ありませんでした!」

 大粒の涙を流しながらヘクセはプリンツェッスィンに謝る。

「私のことはいいので、私じゃなくヴァール殿下に謝ってください」
「うぅ……申し訳ありません……」

 プリンツェッスィンは牢屋の中で蹲るヘクセに手を伸ばした。そしてヘクセはその手を取る。

「……プリンツェッスィン王女殿下、ありがとうございます」

 そしてニヤリとほくそ笑み、詠唱した。

「ヴァール様は私のものなんだから!! ベヌツエン・マギー・エンデ・フルーフ!!」

 禍々しい邪悪な魔力がプリンツェッスィンを包みこんだ。その場は騒然とし、ヘクセの高笑いが響き渡る。そしてプリンツェッスィンは眠りについたように気を失った。

 ヘクセがプリンツェッスィンにかけたのは、世界魔法協会で禁断とされる人を呪う魔法、呪詛であり、かけた彼女もその場に倒れ込み今にも息絶えそうである。

 プリンツェッスィンとヘクセは王宮医務室へ連れていかれた。医務官が彼女たちを診たが、脈も弱々しく今にも死にそうである。

「ツェスィー!!」

 そこにゲニーが駆け込んできてプリンツェッスィンの枕元に寄り添った。またアンジュも駆けつけ、二人に治癒魔法を施す。

 人を呪う魔法は複雑怪奇で、人の命と引き換えに魔法を作るのだ。どうやったら解けるかはかけた本人にも分からない。

 ヘクセは呪詛をかけたせいで、呪いの反動が起き死ぬ寸前までいくが、虫の息の彼女をアンジュの聖女の力で蘇ることが出来た。

 しかしアンジュの力を持ってでもプリンツェッスィンは目を閉じたままで開かない。

 目を開けたヘクセにアンジュは目に涙を溜め言い放った。

「人を呪った罪を生きて償いなさい!」
「……!! 私だけ生きるのはおかしいですわ! あの令嬢()たちも死んだんですもの!」

 悔し涙を流すヘクセにゲニーが困ったような、優しい瞳で話しかける。

「大丈夫だ。あの令嬢たちは生きてるよ。ただ今は罪を償ってもらってるだけだ。なぁ、君がプリンツェッスィンにかけた呪詛はどんな呪詛か教えてくれないか?」

 一人娘を呪ったのに一向に責めてこないゲニーを見てヘクセは子供のようにわんわんと泣き出した。そんな彼女をアンジュはぎゅっと優しく抱きしめ、泣きやむまで頭を撫でる。

 そして暫くしてヘクセは泣きやみ、口を開いた。

「……王女様の魔力の流れをおかしくする呪詛です。一度かけたら死に至ります。なので王女様が生きてること自体が本当は有り得ないのです」

 ヘクセは自分の知ってることを洗いざらい話す。そして彼女はもう一度厳重に投獄された。

 ゲニーは、プリンツェッスィンは魔力量が多かったおかげで、死に至らなかったと推測する。

 そして魔力の流れを正常にするには正常な魔力を流すしかなく、魔力を与え流すのには体液を流せばいいのだ。

 すぐ血液をプリンツェッスィンに流していく方針が決定し、ヴァールが口を開いた。

「僕の血液を使ってください」
「分かった。ヴァール、お前に頼んだ」

 ゲニーもヴァールの申し出を受け入れる。

「あとお父様。ツェスィーは僕の遺伝子上の妹じゃなく、ちゃんと従妹です」

 真っ直ぐな眼差しでゲニーを見つめたヴァールは、証明書を差し出した。そして過去をちゃんと映して分かったことを説明する。

「僕たちは愛し合ってます。お父様……いえ、ゲニー国王陛下! プリンツェッスィン王女殿下を、僕にください! 必ず、必ず世界一幸せにしてみせます!」

 ヴァールはこの世界で相手の言うことを全て聞くという絶対服従の意で使われる土下座をした。それは王族がするものではなく、彼の本気さを感じる。

「お前、遅いんだよ。そんなチキンだとツェスィーを幸せに出来るか不安になるな。ま、でもそんなチキンなお前がアイツは好きなんだろうなぁ」

 ゲニーは呆れた様に笑った。

「もう本当ヤキモキしてたよ。ヴァールがツェスィーのことを好き、これは異性として好きなの方のな。なのかなって疑問を最初思ったのは……。ツェスィーにミルクをあげてるときかな……」

 あんまり早い段階で気づかれてたことにヴァールはなんとも言えない恥ずかしい気持ちになる。

「何か嫌な予感がしたんだよ。これは父親特有のものかもしれないがな。しょっちゅう同じ時間に風呂上がりですみたいなサッパリした顔してるし、こりゃまだ一緒に入ってるなぁと。それにお前ら従兄妹にしたらおかしいくらい距離感バグってるし。もう学園に入る前からお前は完全にツェスィーのこと性対象として見てたよな。アイツがお前の妄想でどんな辱めを受けてるかと思うと……あ〜娘の父親ってホント嫌だ! 大体お前、ツェスィーを見る視線がいやらしいんだよ! 好きですって白状してるような目で見てんだから」

 ゲニーはそう言いながらやれやれと両手をあげた。

「まあ話は脱線したが、はっきり言ってお前がツェスィーの兄でも、認めてたぞ。お前らがくっつかなかったら誰とくっつくんだよ。きっとお前ら一生独身貫くだろ。もう見え見えなんだよな。だってお前らって僕らに本当そっくりなんだから。血の繋がりって怖いわ〜。人間なのに、番を持つ動物レベルだよな。お互い以外は受け付けられない、最高で最上級の愛だ! まあ、今散々一父親としての立場で悪く言ったが、これからは僕の本音!!」

 そしてニヤリとゲニーは笑う。

「やっと最推しカプたちの本音聞けて安心したわ〜」
「最推しカプ?」

 アンジュは聞きなれない言葉の意味を夫に聞いた。

「ん? 何か異国から入ってきた言葉なんだけどな。簡単に言うと好きなカップリング、つまり恋人なり夫婦なり、そんな一組の中で、自分の中で最高に一番好きな一組のことだ。で、僕の最推しカプはヴァールとツェスィーだよ。兄妹って思っててもこの二人を見てると応援したくなる程本当こいつらクソ可愛いんだよな〜。萌え〜ってこういうことかぁ〜」
「萌え?」

 またアンジュは首を傾げる。

「完成までもう少しだけど、ツェスィーの十八歳の誕生日プレゼントに兄妹でも安全に子供をもうけられる魔法をあげようと思ったんだが、必要ないな!」

 とんでもない発言を聞いて、その場にいた四人は口をあんぐりとさせた。ゲニーに作れない魔法はないと確信した瞬間であった。

 そしてゲニーはあははと笑い、話を続ける。

「あ、でもね。最推し、最も好きな人はアンジュだから安心してね?」
「う、うん?」

 また意味がわからないアンジュは首を傾げた。

「ゲニー、オタク用語乱用するな。デーアもアンジュもポカーンとしてるぞ」
「ごめんごめん。また話逸れたけど、お前ら二人のことは、応援してるから。何かあったら僕に言え。最大限の力を使ってバックアップするからよ。もし……最悪の場合のことだが、ツェスィーが目覚めなくても……ちゃんとあいつの為に結婚式くらいあげてやれよ」

 ゲニーは憂いを帯びた瞳でヴァールにお願いをする。

「はい。ツェスィーが目覚めるよう僕の最大限の力を駆使します。絶対目覚めさせてみせます。このままではツェスィーを愛しても愛しきれないので。兄妹でないのなら、絶対子供も欲しいですからね。ツェスィーとの子供はきっと世界一可愛い子ですよ!」

 頬を染めながら、ヴァールはニコリと笑った。

「あ、でも世界一可愛いのはやっぱりツェスィーですので、二番目に可愛い子ですね!」

 そしてすぐさま訂正を入れる。

「ヴァール、本当ブレないわね。誰かを見てるようだわ」

 デーアは隣に座るヴァイスハイトとその隣に座るゲニーを一瞥した。そして、プリンツェッスィンも自分とアンジュのように溺愛されるのねと少し諦めたような、また嬉しそうに笑うのだった。