ヴァールは引き続き遺伝子上兄妹でも健康な子を産める魔法を生み出すことの研究を進めていた。

 そんなある日、ヴァイスハイトに手伝って欲しいと言われ、彼が管理している城内の図書の分類をプリンツェッスィンがすることになり、ある一冊の本を手に取る。

「兄様の言っていた〝あのこと〟はこれだったのね!」

 その本は双子について書かれていた本で、両親たちがそうなのもあり興味を持って中身を読んでみたのだ。

 ヴァールが何故悩んでたかが分かったプリンツェッスィンは彼の葛藤を考えると心が傷んだ。それと同時に、本当にこの文献が合ってるのかを疑う。両親たちが遺伝子的にクローンだとは思えなかったからだ。

「絶対何かあるはずよ……。医学は進化するわ。前に正しいと思われてたことが(くつがえ)されたことは沢山あるもの」

 丁度他国より医学に精通してるメディツィーン国へ外交のため訪問する機会がプリンツェッスィンに訪れる。

「わぁ! シャイネン見て! 凄い本の数よ!」
「流石ですね。我がフリーデン王国に凌ぐほどの蔵書の数です」

 プリンツェッスィンはシャイネンと共に公務の間にメディツィーン国の国立図書館へ頻繁に足を運んだ。医学に精通してる国であるメディツィーン国立図書館には、遺伝子に関する本が沢山置いてあった。

 その本たちを漁っていたら、フリーデン国には出回ってない国外持ち出し禁止の書物が目に入る。

 医学に通じる世界的に有名な人の文献で、双子にも二種類あること、一卵性双生児と二卵性双生児があること。双子が生まれた者の子孫から得た話で、かなり昔で本人たちは亡くなってるが、生まれた時胎盤が二つあったとの証言があった。

 胎盤が一つの一卵性双生児はいわゆる同じ受精卵が分かれたものであるクローンみたいなものであるが、二卵性双生児はそうではなく別の受精卵であり普通の兄弟が同じ時に生まれたようなものであると書かれていた。

 ただ双子のデータ自体が少なく、把握出来てる範囲ではクローンというデータしかないとのこと。

「シャイネン! 著者の方に会いに行くわ!」

 今は第一線を退いてリタイヤした文献の著者であるゲレールター・ゲーンの家に足を運んだ。

「まさかフリーデン王国の王女様が訪れるとは……」
「ゲーンさん、詳しいお話聞かせてくださりますか?」

 プリンツェッスィンの真剣な表情を見たゲーンは、自分の知ってることを全て彼女に話した。

 出産時のときの証拠があれば分かると言われ、プリンツェッスィンはまだ健在な祖父母たちの所へすぐさまシャイネンと共に向かうことにする。

「ツェスィー、会いたかったわ。どうしたの? 突然来て何かあったのかしら?」
「まあまあ、どうしたのかしら? 見ないうちに大きくなったわねぇ。本当アンジュに似てきたわぁ」
「そうかしら? どっちかというとゲニーにじゃないかしら?」

 出迎えてくれたのはゲニーとヴァイスハイトの母親であるヴィレ・アルメヒティヒ夫人と、アンジュとデーアの母親であるハイルング・オラーケル夫人で、優雅にお茶を飲んでいた。

 アンジュたちが婚姻を結び、アルメヒティヒ家とオラーケル家は親しく交流をするようになる。そして夫人たちも仲良くなっていき、たまにこうやってお茶をするのだ。

「お祖母様たち、私はどちらにも似てますわ。髪はお母様に、瞳の色はお父様にそっくりと言われてます」

 プリンツェッスィンはどちらに似てるか論争しそうになった祖母たちの間に立つ。

「今回こちらに訪問させていただいたのは、お母様たちの出産の時の記憶を見せてもらいたいからです」

 いきなり孫に突拍子もないことを言われ、ヴィレたちは目を白黒させた。

「お願いします!」

 プリンツェッスィンの目は真剣そのもので、ふざけたことを言ってるとは思えない。

「分かったわ」
「私たちの記憶であなたの役に立てるのなら」

 そして両親たちが生まれた時の記憶を見させてもらった。確かに両親たちの胎盤は二つあり、二卵性双生児ということが分かる。医師たちにも証明書を作ってもらい、フリーデン王国へ帰国することにした。

「ヴァールお兄様! 成人の儀が終わりましたら、話があります!」
「……? 分かった、いいよ」

 ヴァールは不審に思ったが、プリンツェッスィンを信じることにし、話をするのを承諾する。

「姫様、何故直ぐに言わないのですか?」

 プリンツェッスィンが直ぐに伝えると思っていたシャイネンは何故と思い尋ねた。

「きっと兄様のことだから、成人の儀が婚約発表になってしまうわ。そうしたら、今まで成人の儀として準備してきた城内皆の手を煩わせてしまうもの。混乱は避けたいからね」

 プリンツェッスィンの言ってることも一理あるので、シャイネンは黙ってることにする。

「あ〜でも! 兄様喜んでくれるかしら? もう私たちに障害はないもの! お父様たちも説得できるかしら?」
「きっと若はお喜びになります。ゲニー様たちも大丈夫ですよ。喜んで婚約を応援すると思います」

 プリンツェッスィンはくるくると回って喜び、主人の幸せをこれまでずっと望んでいたシャイネンは、目を潤ませた。

「本当に良かったです……」
「シャイネン、泣くのは今じゃないわよ? 私の結婚式に取っておいてね?」

 プリンツェッスィンはふわりとシャイネンに笑いかける。

「はい……」

 そして従者は涙を拭き、笑うのだった。