例の事実を知った次の日、ヴァールはグレンツェンとレッヒェルン、そしてビブリオテークのいつもの四人でお昼を囲んでいた。しかしヴァールの顔は暗く、理由を知らないレッヒェルンとビブリオテークは心配そうに元気がない親友の顔をのぞき込む。

「ヴァール〜。どうしたんだぁ?」
「何か悩み事でしょうか? 悩み事は早めに解決した方がいいですよ。私たちで良ければ聞きますから」

 何があっても表面上は平然と出来るヴァールが、こんな暗い顔をするなんてとレッヒェルンとビブリオテークは心配し力になると言った。

「心配かけてごめんね……。納得したつもりでいたんだけど、やっぱりどうしたらいいか分からないし、不安なんだ……。今から言うことで引かれるかもとは思う。もし不快にさせたりしたらごめんね……」
「坊、言うなら音遮断の魔法かけておくぜ」

 こういう時はちゃんと気が利く従者は、主人の為に音を遮断し聞こえなくさせる魔法をかける。引くこととは何なんだとレッヒェルンとビブリオテークは耳をそばだてた。

「ツェスィーと僕は……兄妹なんだ」
「「は?!」」

 まさかと言ってる意味を履き違えてそうな親友たちにヴァールは補足する。

「ちゃんと従兄妹ではあるから、両親たちが不貞を働いたわけではないよ。だけど、双子と双子の子供同士は兄妹になるんだ。僕はツェスィーを好きになってはいけなかったんだよ」

 悲しそうに笑うヴァールを見て、レッヒェルンとビブリオテークは自分の事のように胸が張り裂けそうになった。

「だから、俺提案したんだよ。〝魔法〟で解決すればって。関係は従兄妹なんだし、子供だけが問題なんだろ? 何とかなんねーのかなぁって」

 腕を上げ頭の後ろで組むグレンツェンは遠くを見つめて言う。

「「……」」

 親友二人はグレンツェンの発言を聞いたあと、黙り込んでしまった。しかしレッヒェルンが暫くして沈黙を破る。

「話してくれてありがとよぉ! こんなことを言うのは不謹慎だと思うが、ヴァールがこんなにも信頼してくれてさぁ。何かこう胸に来るものがあるな!」
「レッヒェ……本当に不謹慎です。まぁ、でもそれは私も同感ですが。一国の王甥が私たちをこんなにも信頼してくれて、誠に光栄です。ヴァール、私たちは貴方に生涯忠誠を誓いましょう。あなたが辛い立場に立たされた時は寄り添い、あなたが間違った道へ行こうとするときは正します。一生あなたについて行きます、ヴァール殿下」

 レッヒェルンとビブリオテークは片膝を立てて、腰に下げていた剣を両手に持ちヴァールに差し出し、頭を下げる。それは恭順の意を表するもので、忠誠を誓う仕草であった。そして、ヴァールはその剣を抜きそれで二人の肩を叩く。

「ありがとう。君たちのような者をもてて、僕は果報者だよ。さあ、顔を上げて! 僕たちは友達だろう?」

 ヴァールはにこやかに、だが風格のある笑みを浮かべた。いくら腰が低く皆に献身的だとしても、やはり彼は王族なのである。

「ありがとな!」
「ありがとうございます」

 臣下二人もとい親友二人は笑みをこぼした。

「ところでさ、俺もグレンと同意見なんだよなぁ。倫理的にアウトってこと以外なら、魔法で何とか出来ねぇのかねぇ〜」
「そもそも法律を変えてみてはどうですか? まぁ、問題は倫理的な事と、生まれる子供のことでしょう。でもそれをクリアすればプリンツェッスィン王女とのこともあり得ると思います。子供をもうけないということを前提に、兄妹でも結婚できるという法律にすればいいでしょう。私が宰相になったらそういう法律になるよう力添えしますよ」

 引くどころか、応援してくれる親友二人を見てヴァールは胸が熱くなる。そして、自分は一人じゃないと思え、力が込み上げてきた。



 一週間が経ち、ヴァールは最終学年の六年生になる。そして十二歳のプリンツェッスィンも学園に入学した。

 入学式の放課後、ヴァールはプリンツェッスィンのクラスまで迎えに来る。そして知っておくべき学園内の施設を案内することにした。

「ヴァールお兄様が生徒会長なんですね! 在校生代表のご挨拶、とても素敵で格好良かったです!」
「名ばかりの生徒会長だよ」

 プリンツェッスィンから手放しに褒められ、ヴァールは照れる。

「坊、何謙遜してんだよ。坊が名ばかりだったら今までの歴代の生徒会長は何なんだろうな〜。本当、すっげぇ有能過ぎて先生たちからも一目置かれてるんだぜ」
「若、流石ですね。……アンタは足引っ張ってんじゃないわよね?」

 ヴァールが謙遜するので従者はそうじゃないと言い張った。そしてプリンツェッスィンの従者はグレンツェンがヴァールに迷惑をかけてないか疑う。

「最後にここが生徒会長室だよ」
「わぁ〜! ここで兄様がお仕事されてるんですね!」
「この部屋は僕の部屋だけど、仕事の関係で副会長のグレンや書記のレッヒェとビリーたちによく居てもらってるんだ。グレンってこういう仕事苦手そうに見えるけど、生徒会副会長が板に着くほど仕事が出来るんだよ」

 ヴァールに生徒会長室を案内してもらい、更にグレンツェンの意外なところを聞きプリンツェッスィンは驚いた。その彼女より驚きを隠せないのはシャイネンである。

「意外です……。コイツの事だから、書類を紙ヒコーキにして飛ばして遊んでるのばかりと思ってました」
「お前、俺の事なんだと思ってんだよ。まあ、俺に惚れ直してもいいんだぜ?」

 グレンツェンが遊んでると思ってたシャイネンの言葉を聞いてイラついたグレンツェンは彼女を壁を背に立たせ顔の横に手を付いた。

「意味わかって言ってんの? そもそも惚れてなければ直すもなにもないのよ? やっぱアンタってアホよね」
「はぁ? 本当、シャイちゃんは素直じゃねぇなぁ」

 壁ドンしただけでは気が収まらないグレンツェンは、シャイネンの顎を持ち上げる。

「キモイ」
「……本当お前可愛くねぇ!!」

 死んだ目をしながらグレンツェンに顎クイをされてるシャイネンと、彼女を睨みながら悪態をつく従者をみてヴァールは苦笑いをした。

「兄様、やっぱりグレンってシャイネンの事好きなのでしょうか? シャイネンも何となくグレンの事好きなんじゃないかなと思う時があるのですが」
「それはグレンに口止めされてるから僕の口からは、ね? でも確かにシャイネンはグレンのこと好きだよね。恋愛感情として」

 プリンツェッスィンはヴァールに従者たちから聞こえない声で耳打ちする。そしてヴァールのその言い回しはグレンツェンがシャイネンのことが好きだということを白状してるものなのだが、彼も従者から良いと言われるまでプリンツェッスィンにも内緒にしておくことにした。

 そうしてるうちに部屋へレッヒェルンとビブリオテークが入ってくる。

「よぉよぉ! 王女様とシャイちゃんじゃねぇかぁ! 入学おめでとう!」
「王女様、シャイネンさんご入学おめでとうございます。王女様は首席合格なんですよね。お見逸れしました。ヴァールに似て優秀なんですね」

 レッヒェルンは明るい口調で二人に話しかけ、ビブリオテークもお祝いの言葉をかけた。

「ありがとうございます。兄様よりは劣りますけどね」
「そんなことないよ? ツェスィーも筆記満点だったし、魔法実技においては僕をも凌ぐんじゃない?」

 プリンツェッスィンは皆に末っ子のように可愛がられて育てられたせいか、親たちから勉強ができると思われていない。しかし、実際は伯父伯母譲りの学力の高さと父親譲りの高い魔力、そして母親譲りの自身の魔力量に合わせた戦法でヴァールに続いて二人目の入学試験満点を叩き出した才女であった。

「姫様はご自分のお力を(おご)らない謙虚な姿勢が素晴らしいのです」
「はぁ? 坊だって腰の低さは国一番、いや世界一だぜ?」

 自分の主が一番と静かに戦いを始めようとした従者たちを一瞥したヴァールが口を開く。

「食堂で何か食べない? ツェスィーの分は僕が奢ってあげるよ。シャイネンの分はグレンが奢ってあげて?」
「は?! 何で俺がコイツに奢らなきゃいけねーんだよ?!」
「兄様、ありがとうございます! ここのいちごパフェは美味しいと聞きました! 楽しみです!」
「あらどうも。そうねぇ、ジャンボミラクルいちごパフェでも頂こうかしら?」

 六人は食堂へ移動することにした。放課後も解放されてるそこは、生徒が友人や恋人と食べながら過ごすスペースでもある。食堂のオススメナンバーワンスイーツは特製いちごパフェで、パフェの中でも特製ジャンボミラクルいちごパフェは高さ五十センチの巨大パフェで値も張るが、一度は食べたいと皆が口を揃える一品であった。

「ヴァール兄様! 美味しいです!」
「良かった。お代わりも頼んでいいよ?」

 特製いちごパフェを頬張るプリンツェッスィンにお代わりしなよとヴァールも微笑む。

「お代わりはいいです! 太ってしまいます!」
「え〜? 遠慮しなくていいのに。それにツェスィーは太っても可愛いと思うよ? 今だって少し痩せすぎだと思うし」

 しかしプリンツェッスィンは彼の誘いを断った。ヴァールは残念そうに彼女を見つめ、体型のことに関して本音を漏らす。

「兄様は……太ってる方がいいですか? なら太りますが」
「姫様。若はどんな姫様でも好いてくれるとは思いますが、太ると健康に悪いのでお勧めしません」

 ヴァールが太ってる女性の方が好きならそうなると言うプリンツェッスィンに対し、シャイネンはそれを阻止した。

「お前はこの巨大パフェで太りやがれ。前よりは肉ついてきたけど、お前細過ぎんだよ。あ〜くそ! 俺の財布が痩せた! ガリガリだ!」
「は? こんなもんで痩せないでしょ。知ってんだからね、アンタがどんだけ貰ってるかくらい」
「人の給与把握すんなよ!!」

 グレンツェンはシャイネンに体が細過ぎると文句を言いながら、財布が軽くなったことを(わめ)く。しかし同じ給与を貰ってる彼女には特製ジャンボミラクルいちごパフェなど痛くも痒くもないことはバレバレであった。

「グレンってシャイちゃんと本当仲良いなぁ。羨ましいぜぇ」
「「どこが!!」」
「そこがですよ……」

 レッヒェルンに揶揄われ、グレンツェンとシャイネンは声を合わせてそれを否定する。だがそれこそが仲良い証とビブリオテークにも追い討ちをかけられるのであった。

 レッヒェルンとビブリオテークと別れた四人はまたヴァールの生徒会長室へ戻る。寮部屋のないこの四人が込み入った話をするには、ヴァールの生徒会長室かグレンツェンの生徒会副会長室しかないのだ。

「シャイネン、グレン、少しあっち向いていてくれる?」

 そう従者たちに言ったプリンツェッスィンは愛しい従兄を見上げ、お強請りをした瞳で見つめる。

「ツェスィー?! え! 流石に二人の前では……」
「大丈夫です! ちゃんと音遮断の魔法はかけます! 何なら視覚遮断の魔法もかけていいですよ」

 そしてプリンツェッスィンは音遮断と視覚遮断の魔法をかけた。ヴァールは気まずそうな顔をし、口を開く。

「えっと……。その……。あのね。ツェスィーに言わなきゃいけないことがあって……」
「何ですか?」
「こういう事は、結婚してからにしない?」

 ヴァールから触れ合いをやめないかと提案され、プリンツェッスィンは不機嫌な顔をした。

「キスもですか?」
「うん……」
「一週間前からヴァールお兄様変ですよ? キスもして下さらないし……何かあったのですか?」

 一週間前の例の事実を知った時からヴァールはよそよそしくなり、プリンツェッスィンもおかしいと思っていたのだ。

「えっと……。ケジメ? をつけたくてね」
「……ケジメですか。怪しい……」

 プリンツェッスィンはじとーっとヴァールを見つめた。

「怪しくないって。だから、こういう事はやっぱり結婚してからにしよう?」
「兄様、何を隠してますか?」

 プリンツェッスィンはヴァールの言動が何かがあってのことだとすぐに見抜いてしまう。

「え?! ……何も……隠してない……」
「……話してはくださらなさそうですね。言っておきますが、夫婦になったら隠し事はなしですからね!」
「分かってる。夫婦になれたら、ツェスィーには隠し事しないから」

 ヴァールの発言は本音だった。彼はプリンツェッスィンと結婚出来たら全て包み隠さず話したいと思っている。それが出来る自分になりたいと胸が苦しくなった。

 眉が下がる愛しい従兄を見て、プリンツェッスィンはやれやれと肩を落とす。そしてヴァールに訴えかけた。

「話さないのはいいのですが、キスも愛撫もないのは納得いきません!」
「え?! ツェスィー……ダメなんだよ。キスとかしたら我慢できなくなる……」
「だから、何故我慢しなきゃいけないんですか?!」
「……」

 プリンツェッスィンに言われ、ヴァールは黙り込んでしまう。

「兄様、譲歩し合いましょう。兄様は何故なのか話さないで良いし、私も聞きません。なので、キスや愛撫はしてください。処女を奪えとは言わないんですから、良いですよね?」
「分かったよ……」
「私とイチャイチャするのがそんな嫌ですか?!」

 譲歩し合おうと提案したプリンツェッスィンに対して、暗い顔をするヴァールを見た彼女は自分と触れ合うのがそんなに嫌かと不貞腐れた。

「だから、嫌じゃないんだって! ストッパーが外れそうだから嫌なんだって!」
「ストッパーが外れないようにすればいいのですね?」
「う……ん?」

 プリンツェッスィンに誤解され、ヴァールは慌てて訂正する。そして可愛い従妹はある提案をした。

「なら音遮断と視覚遮断の魔法はやめましょう」
「は?! え! ってことは二人に見られながらするの?!」
「後ろを向いていてもらうので、正確には聞かれながら、ですが。でも、それなら兄様のストッパーが外れた時二人が止めてくれるはずです」
「……それなら普通に何もしないで我慢した方がいい」

 それは従者二人に監視されながらイチャイチャしようと言うもので、プリンツェッスィンの可愛い喘ぎ声を二人に、特にグレンツェンに聞かれるのが嫌なヴァールは反対する。

「兄様は修行僧ですか?! 結婚まで指一本触れなくても我慢できるんですか?!」
「……わかった。二人に話をつけるから、音遮断と視覚遮断の魔法解くね」

 だが可愛い従妹に迫られヴァールの気持ちは結局揺らいでしまった。

「ということで、僕が暴走しないように見ていて、いや聞いていて欲しいんだ」
「「は?!」」

 ヴァールに先程のことを説明された従者二人は狼狽える。

「ほら! 二人も困惑してるでしょ?! やっぱ止めようよ!」

 ヴァールはプリンツェッスィンに言い聞かせようとした。

「いえ、困惑というかびっくりしただけです。姫様の提案は良いと思いますよ。若が音遮断と視覚遮断をして触れ合った場合、姫様の純潔を守れるとは思いませんからね」

 しかしシャイネンから痛いところを突かれ、ヴァールは黙ってしまう。

「俺、姫さんの喘ぎ声聞くのかよ……。何か微妙……」

 げぇというゲンナリした顔をしたグレンツェンをシャイネンは睨みつけた。

「アンタには音遮断するに決まってるでしょ。姫様の喘ぎ声はきっと色っぽ過ぎるから、アンタが発情しないよう聞かせられないわ」
「それを言うなら坊の喘ぎ声もフェロモンムンムンだろうから、お前は聞くなよ」

 シャイネンはグレンツェンにプリンツェッスィンの喘ぎ声は聞かせるつもりはないとピシャリと言い放ち、ヴァールの従者も主人の喘ぎ声を王女の従者に聞かせたくないと睨みつける。

「じゃあ、私の声はグレンに聞こえないようにして、兄様の声はシャイネンに聞こえないようにするわ!」
「何かよく分からない方向に話が進んでいく……」

 どんどん話が変な方向へ行っていってしまうとヴァールは溜息をついた。そして従者たちにそれぞれ魔法をかけ、主人二人は向き合い見つめあう。

「ふふ、兄様もういいですよ?」
「ムードの欠けらも無いんだけど……」
「兄様は……私とするのにムードはいるんですか?」

 プリンツェッスィンは潤んだ瞳でヴァールを見つめた。

「い……らない。どんな状況でもツェスィーに欲情しちゃうよ。ツェスィー、愛してるよ」
「私もです。兄様、愛してます」

 二人は唇を重ねる。そして段々と深くなった。ねっとりと深く、官能的な音を立て交わるそれは、互いを求め愛を確かめるもので、二人の胸を切なくさせる。

 本当は今すぐにでも交わりたいのに交われない切なさや、情けなさをその口付けで消去した。

「兄様……触って?」

 プリンツェッスィンは潤んだ瞳で従兄を見つめ、ヴァールの手を掴み、自身の胸に添える。

「ツェスィーは昔からお強請りが上手だよね。何でも叶えてあげたくなる」

 ヴァールも可愛い従妹のお願いを快く叶えた。プリンツェッスィンの小さな胸をふにふにと触りながら、耳元で囁く。その落ち着いた低い声はプリンツェッスィンを昂らせるのには十分で、彼女の胸をときめかせた。

「それは……兄、様だから、そう思うん、ですよ?」
「そうかな? 世の男は皆ツェスィーのこと可愛いと思ってるよ。性的な意味でね。嫉妬しちゃう」

 以前胸を触られてもくすぐったいと思うだけだったプリンツェッスィンも、段々ヴァールに触られるのに快感を覚えていき感じてしまう。

「んん……。それを言うなら、兄様こそ、世の女性、から性的な目で、見られて、ます」

 顔を赤らめた愛しい従妹に潤んだ目で見つめられ、ヴァールも下半身を張りつめさせた。

「無駄なのにね……。僕はツェスィーでないと勃起()たないよ」
「私も兄様じゃ、ないと、濡れません……」

 以前の性的暴行未遂事件が起こってから、従者に頼み幻術魔法をかけてもらい、色んな女性に迫られ触られる幻術を見たが全く興奮しなかったヴァールは、もう目の前の可愛いお姫様にしか欲情しないことを知らされる。

 きっと自分はプリンツェッスィンと結婚出来なかったら一生独り身だと、ヴァールは痛感した。

「それは本当かな? 心配になっちゃう」
「兄様こそ、本当ですか?」

 プリンツェッスィンもそうであって欲しいとヴァールは願う。

「愛してるよ……。ツェスィーただ一人を愛してる」
「愛してます……。私も兄様ただ一人を愛してます」

 また深く口付けをし、二人の銀の橋がかかった。

 そしてヴァールはプリンツェッスィンの左の手の薬指をつつーっと舐める。更にちゅぱちゅぱと舐めまわし、もう薬指で舐めたところがなくなってから、指輪をはめるところにキスを落とした。

「ここに指輪をはめられるように、努力するね」
「はい。いつまでも、お待ちしてます」

 二人は切なそうにお互いを見る。今は叶えられないその夢が現実になるよう切に願ったのだった。

 今まで聞いていた行為のせいでのぼせてる従者たちはもういいよと主人たちから言われる。

「これ坊たちの結婚まで続くのか……? ってか坊、エッロ……」
「姫様の喘ぎ声もとても色っぽくてムラムラするわ」
「なぁ。エロいの聞いて我慢したから、ご褒美くれよ」
「え?」

 シャイネンはグレンツェンの言う意味が分からないと首を傾げた。

「ムラムラして仕方ないから、本当はお前とキスしたいけど、お前は嫌だろ? だから、ほら。俺のおでこにキスしろ」

 グレンツェンから思ってもいなかった提案をされ、シャイネンは柄にもなく狼狽える。しかしポーカーフェイスの彼女の狼狽えようは彼には伝わらなかった。

「……。アンタってバカよね。……分かったわ。目瞑って」

 キスしたいと思ってるのはグレンツェンだけではないという気持ちを口にするのを押し殺し、シャイネンは彼にキスをする。

「……え?! お前どこにキスしてんだよ?!」
「ほっぺだけど?」
「いや、ほぼ口だろそこ!」
「そうかしら? そんなんで照れてたら影失格なんじゃない? それとも不服?」

 遊んでそうな見た目の仕事の相棒が、実は初心な男だと知ってるシャイネンはグレンツェンを揶揄い口角を上げた。

「〜!! 不服じゃねーし!! ……これがあるなら我慢出来る……」
「そう? なら毎回特別にしてあげるわ」

 シャイネンはグレンツェンを見つめ微笑む。その笑みは何とも色っぽく艶があるもので、グレンツェンの下半身を元気にさせるには容易かった。

「キモっ。何おっ立ててんの」
「う、うるせぇ!! これはお前が悪い!!」

 ゴミを見るような目で相棒を睨み付けるシャイネンに、グレンツェンは不可抗力だと訴えたのだった。