声が裏返って、相手を威嚇するのに失敗する。
だけど今の状況を飲み込むまでに時間がかかってそれどころではなかった。

「僕の名前は富永祐です」
男が冷静に自分の名前を名乗るが、太一には聞き覚えのない名前だった。

昔一緒の学校に通っていただろうか?
思い出せない。

少なくても、自分と仲が良かった学友の中に富永という男はいなかった。
「知らないな。どうしてここにいる」

太一は両手で傘を握りしめて男へ向ける。
傘の先端はいつでも男の目をつくことのできる位置にあった。

それでも男が動じた様子はない。
「勝手入ってすみません。僕、行き場所がなくて」

男がモジモジと指先をいじりながら説明する。
その姿は途端に幼い子どものように見えて太一はうろたえた。