ちょっと別の人間の指紋が出てきても、それは知り合いが来たのだろうと勘違いされるはずだ。

俺の代わりに殺された冨永を部屋に残し、必要最低限のものだけを車に乗せてエンジンをかけた。

さて、これからどこに行こうか。
終の棲家はなくなってしまった。
もう二度とここへ戻ってくることはない。

死を覚悟して家を選んでいたときの男の姿は今はもうどこにもなかった。
性に貪欲に、昔のギラついた目を取り戻している。

どこでもいい。
とにかく遠くへ。

そしてできるだけ早く日本を出よう。
男はそう決めてアクセルを踏んだ……瞬間、大きな爆発音と共に車は炎上していた。

モクモクと煙があがる車内には黒焦げになった男の死体が座っている。
「やれやれ、やっと片付いた」