この家を購入したときにはすっかり気が緩んでしまって、鍵の付替えを後回しにしたと言うのに。
そもそも、この慎重さを失っていたからこそ、今の計画があるのだけれど。

男はそろそろと玄関に近づいてドアを開けた。
玄関には冨永の薄汚れた運動靴しかない。

が、廊下には複数人が土俗で室内へ踏み入れた痕がしっかりと残っていた。
どうやら連中は3人でこの家に上がり込んできたみたいだ。

男は靴を脱いでスリッパをはき、室内に向かった。
いつものようにダイキングキッチンのドアを開けるととたんに血の匂いが鼻腔を刺激した。

その匂いによって冨永が襲撃されてから数時間経過していることがわかった。
冨永はキッチンに仰向けになって倒れていた。

白目を剥き、驚愕の表情を浮かべている。
連中は冨永へ向けて俺の名前を呼んだんだろうか。

そのとき冨永は慌てて左右に首をふり『違う。そんなヤツ知らない!』と、叫んだかもしれない。
連中が知っている俺の名前は小沢太一じゃない。