男は苦笑いを浮かべて左右に首をふり、ミカは『私だけなら、あなたのものになるかもしれないわよ』と冨永の腕に自分の腕を絡みつけた。

普通、こんな状況になると気まずさを感じるものだ。
知り合いの彼女が自分にぞっこんなんてシーン、関係に亀裂が入ってしまう元だ。

だけど冨永はそんなことを気にしている様子もなく、鼻の下を伸ばし続けている。
ミカのような若くてキレイな子からこれだけ褒められれば、誰だって少しは揺らいでしまうかもしれないが。

それから食事を終えてミカが帰った後も冨永は頬を赤くしてぼーっとしていた。
『晴子さん、僕たちのことをよく似てるって言っていました。一瞬私でも見間違えたって』

嬉しそうに言う冨永を見て男は満足していた。
明日この男に降りかかる悲劇を思えば、これくらいの思いはさせてやってもよかったのだと。