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この日帰宅したとき女性ものの靴を見た男はミカがまだいてくれたことにホッとした。
しかもミカは冨永とおそろいのエプロンまでしていたのだ。

『彼ってすごく手先が器用なのよ』
テーブルに並んだ料理に舌鼓を打ちながらミカが冨永を褒める。

褒められるたびに冨永は頬を赤らめて『そんなことないよ』と、否定した。

『ね、彼ってとても謙虚でしょう? あなたによく似ているから少し傲慢な人なのかと思ってたけど、全然違うのよ』

ミカは彼氏に愛想をつかしてきた彼女を見事に演じた。
時々、本当にこちらが不愉快になりそうで慌てたくらいだ。

『私、冨永さんの彼女になりたかったなぁ』
食事の終盤でミカにそう言われた冨永は完全に鼻の下を伸ばしきってしまっていた。

ミカの存在を少しも疑っていないようだ。

『でも残念だなぁ。この家は僕のもじゃないし、晴子さんも僕の彼女じゃない。全部僕のものなら完璧だったのになぁ』

男へ向けて羨ましそうに言う。