男の言葉にミカは肩をすくめて頷いた。
ミカという名前だってどうせ本名じゃないのだ。

今日だけ別名になったところで問題はなさそうだった。

名前を変更させたのは、万が一冨永がピンクルージュの広告を目にしてミカを見つけてしまったときの保身だった。

『わかった。今日だけ私は晴子ね』
ミカは自分に言い聞かせるようにつぶやく。

『あぁ。頼むよ』
『わかったわ』

ミカは頷き、ベンチから立ち上がる。
歩き出しかけて足を止め、振り向いた。

『なにか食べたいものはある?』
その質問に男は笑顔で『なんでもいいよ』と、答えたのだった。