小沢太一。
それは偽名だった。
本名は誰も知らない。

男は偽名を使い、偽の証明書を作って家を購入した。
男にとってここが終の棲家になる予定だった。

だから富川祐が現れたのは男にとって予定外のことだった。
ここにも誰も、自分以外の人間が足を踏み入れることはないはずだったのに。

ヤバイ組織から金を持ち逃げしたのは20代中頃のことだった。
あれから随分と時間が経過したけれど、やつらはしつこかった。

逃げても逃げても追いかけてくる。
顔を変えて、名前を変えてもなお追いかけてくる。

やがて逃げることに疲れてしまった太一は死を覚悟した。
家なんて買ったらやつらはすぐに嗅ぎつけてくるだろう。

だけど、それまでの短い間だけでも地に足をつけた生活をしてみたかった。
家を持ち、ゆったりとそこで過ごす。

物音におびえたり、誰かに匿ってもらう必要のない生活が、2,3日でも続けばそれで満足だった。