「冗談やめてくださいよ。お仕事忙しいんでしょう?」
そう指摘されて太一は返事に詰まった。

それを見て冨永が笑う。
「名刺を拝見しました。すごいじゃないですか、エンジニアなんて。誰にでもできる仕事じゃないですよ」

太一がいない間にどれだけ家の中を見て回られたのか、想像しただけで脱力した。
引っ越してきたばかりだし、大切なものは銀行の金庫に預けているから問題ないとはいえ、はやりいい気分ではない。

冨永をマジマジと見つめていると、今日は昨日までと髪型が違うことに気がついた。
昨日までは見た目には頓着しないようなボサボサ頭だったのに、今日は丁寧にクシを通してある。

よく見れば分け目が太一と同じになっていて、より一層ふたりの見た目は酷似している。
自分でも恐ろしいくらいに似ているように思えて太一は身震いをした。

この男は俺のなにもかもを奪い取るつもりだ。
家も、彼女も。

「はい、朝食の準備ができましたよ」
冨永は笑みを浮かべたまま、太一に炊きたてのご飯をよそったのだった。