太一は不動産やから受け取っていた鍵を使って玄関を開けた。
ここ最近は太一が下見に来たり不動産業者が出入りしていたから、そのドアはスムーズに開いた。

最初にこの家に来た時はドアが重たくて不動産やの男性が四苦八苦していたのを覚えている。
もしかしてドアの付け替えが必要かもしれないと不安になっていたけれど、どうにかそこは大丈夫そうで安心する。

玄関は半畳ほどで、大きな下駄箱を設置するようなスペースはない。
最も、太一の持っている靴は革靴一足だけなので下駄箱なんて不要だった。

ここに引っ越してくるまでに随分と身軽になってしまったものだと、我ながら呆れてしまう。
だけど物を持ちすぎるのは性に会っていないので、今の自分の身軽さを太一は気に入っていた。

玄関を眺めたあと、太一は隅の方に革靴を脱いで荷物の中からスリッパを取り出した。
まだ部屋の掃除はできていないので、素足で部屋に上がるのは気が引けた。

少し歩くだけで誇りが舞い上がるので、玄関横にある小窓を開けて換気しておく。