貯金が溜まって家を買い戻そうとしたタイミングで俺がこの家を購入してしまったらしい。
富永からすればタイミングが悪すぎる出来事だっただろう。

だけど俺からすれば前の住人に購入される前に買うことができてラッキーだったことになる。
「でもこの家はもう俺のものだ」

「この家を買い戻すために今まで暮らしていたアパートも引き払ってしまいました。
行く場所がないんです」

なるほど、そういうことかと納得する。
「自分の実家はどうなんですか?」

聞くと富永の両親は富永が10代の頃に亡くなっているという。
一人っ子で親戚とも疎遠になっていて、今更誰にも頼ることはできないと。

「親戚と疎遠っていっても、連絡先くらいはわかるんじゃないんですか? 次のアパートが決まるまで世話になることくらい――」