それでも出ていこうとしないので太一は心を鬼にして富永を見つめた。
「行き場所がないと言われても俺も困ります。出ていってもらえませんか?」

「き、今日だけでも泊めてもらえませんか?」
男の申し出に太一は目を丸くした。

いくら昔の住人だと言ってもそれはないんじゃないだろうか。
この家はとっくに手放して、太一が正式に購入しているのだから。

鍵を変えなかったり表札をそのままにしておいたのは悪かったかもしれないが、太一には縁もゆかりもない人間だ。

そんなに世話をしてやる義理だってない。
「これから近所に挨拶まわりに行くんです。出ていってください」

「それなら、挨拶まわりが終わるまで留守番をします」
さらに食い下がってくる男に苛立ちが募る。

「出ていけって言ってるだろ!」
怒鳴りつけて傘を振り上げると、男は身を縮めて玄関へと走った。

「出ていけ!」
太一はさらに怒号で置いたてて、どうにか男を外へ出すことに成功したのだった。