「そこ,なかいいの?」
ピッと指を指されて,思わず停止する。
あまりにもストレートで,肯定も否定もしがたい。
「や。べつに。初那にしては変な絡みかたしてくるじゃんと思って。もしかして」
「違う。違うから余計なこと言わないで」
「ひゃはーん」
高知くん,照れてる?
顔が染まるところなんて初めて見た。
若菜くんも楽しそうだし。
「っあー!!! 遠野さんめっちゃいいじゃん! 扇風機当たるし教師から目立たないし,更に両サイド若菜くんと初那? 両手にバラじゃん! そこなに席? なに席? いくらで買えんの?! 遠野さん変わって~!!」
どこからか聞こえた声。
その持ち主が崩れ落ちる。
「えっと……」
困っていると,助け船を出すように担任が声をあげた。
「かえませーん。ただのラッキー席でーす。めんどいので交換も厳禁でぇぇす」
「んもういじわる! 先生! だったらもう一回! これじゃあまりにも不平等!!」
「うるせー。不平等でも公平です~。くじを引いた時点でお前らの負け~」
悪い顔をする"大人"。
だけど私からヘイトがそれて,担任の思惑通りほっとしてしまう。
「じゃ,改めてこれからよろしくね,遠野さん」
小さく聞こえた声。
+で甘いマスクの微笑みまで向けられて,私は目をキョロキョロと動かした。
「は,はい。よろしくね,若菜くん」
ちょっと,肩身が狭い。