「それで,このキャラクターは?」

「あっえっと。見ての通り当て馬ってキャラです。軟派で,でも優しくて,ヒーローとゴール手前のヒロインに惚れちゃって……」

「なるほどね。略奪するつもりでゲロ甘に接すればいいのか」

「そっんな感じですっ!!!!!」



高知くんは私の趣味にも全力で乗っかって,ちゃんと再現しようとしてくれるプロ意識。

この関係が始まったのは,半年前の事だった。

自身の欲望を抑えられず,高知くんにベストマッチのキャラクターがいる作品を片手に見つめ続けていたあの日々。

教室でたまたま最後のふたりになってしまった時に,私はその手に持っていた漫画を高知くんの目の前で落としてしまった。

優しい高知くんは,直ぐにそれを拾ってくれて……



『あれ,遠野……お前も学校で漫画とか読むんだな。家でこっそり派だと思って……』

『ご,ごごごめんなさい!!!!』



ただ漫画について聞かれただけなのに,罪悪感のあった私は早とちりで洗いざらい話してしまったのだ。

なのにそれを聞いた上で高知くんは



『なら,遠野お気に入りの1冊,持ってきなよ。放課後なら空いてるから,読んであげる』




そう嫌みなく照れくさそうに提案してくれて。

それに全力でしがみついた結果,こうして第何回なのかも分からない集会が恒例化した。

ほんとに,その業界のプロみたいな読み聞かせをしてくれる。

もちろん漫画や小説だと,別のキャラクターが発生してしまうのだけど。

たまに声色を変えてやってくれたり,そのキャラクター分の間を絶妙にあけてくれたりする。

少女漫画なんかは,まるで自分が言われているかのような錯覚まで可能にしてしまうのだ。