「あの初那」「遥菜。俺は」

「ど,どうぞ……」



私が促すと,初那くんは深呼吸をして,珍しく緊張した面持ちで頬を染めた。



「俺は,遥菜の事が好きだ。仕事の事黙ってたのは,隠したかった訳じゃなくて。ただ言ったら,遠慮させるんじゃないかって……俺は対等でいたかったから,クラスメートとして,俺として。それに,遥菜は知ってて近寄った訳じゃない。俺の声を好きになってくれただけだったから,言わなくてもいいかと」

「初那,くん」

「ほんとに,ただ好きなんだ,遥菜。もし受け入れて貰えるなら……俺と,付き合ってくれないか?」



震えてる。

あんなに言葉を発しなれている初那くんの声が。

恥ずかしさで,顔の筋肉が動かない。

私は少し考えて,こくんと頷いた。

自分で言ったのに,初那くんの息を呑む音が聞こえる。

気づいてないなら,伝えなきゃ。

私の口から,初那くんがしてくれたみたいに。



「わ,わたしも……初那くんが好き……です」



全然,ため口だけでは話せないけど。

いつも緊張してしまうけど。

それも全部,どきどきの裏返し。

こんな気持ちになるのは初那くんにだけだって,気づいたから。



「私でいいなら,お願い,します」



彼女に,なってみたいです。

両手で口を押さえ,肩を縮める。

その私を,初那くんが抱き締めた。



「まじかよ……嬉しすぎて俺,今本気で溶けそう」



吐息混じりの声が,やけにセクシーで。

それのせいか,嬉しさなのか,心臓がきゅうと縮まった。



「でも,しばらくは内緒にしてね」

「なんで」



不満そうだけど。



「恥ずかしいし」



それにまた,私じゃ釣り合わないって思われるかもしれないし。



「……分かった。それは徐々にでいい。でもその代わり,若菜には言うから」



こうして妥協され,私たちの秘密の関係は形を変えたのだった。