「あっ」
「っ」
走り出した勢いのまま,誰かに衝突する。
「ご,ごめんなさ」
お互いにお尻をついて,先にはっとした私は声をかけた。
その私を捕まえるように,片手を掴まれる。
よく見ると,あまり親しくはないけれど,クラスメートの女の子だった。
だから,振り払うほど驚きはしなかったけど。
思わず数秒,呼吸を止める。
「あの……?」
「なんで……?」
そう聞きたいのは私の方。
ぽつりと落とした彼女は,俯いたまま立ち上がろうとすらしない。
「高知くんに特等席で朗読してもらって? 大事にされてイチャイチャと? 放課後にこっそり……?」
「あの,ねぇ大丈」
「大丈夫なわけ,大丈夫なわけないでしょ?!?! 高知くんは,中田千羽は,そんな誰かに独り占めされていいような声優じゃない!!」
なか……声優?
初那くん……の,話し,だよね?
いきなり感情一杯にぶつけられても,何も分からない。
だって,声優をしているのは若菜くんで。
2人は知り合いで,初那くんは時々何かの仕事で出掛けていて。
……え?
「なにとぼけた顔してんの? ファンなら誰だって分かるよ! 声を少し高くしてても,あのトーンも特徴も変わらない。"なかたちう"なんて"たかちうな"のアナグラム! 分かるに気まってんでしょ! こっちは1作目,『君と世界の法則』から顔も年齢も知らずにリア恋してたガチ勢なのっ!!! そこはあなたの場所じゃないっ!!」
知らない。
なにも
呆然と困惑するだけの私をようやく捉えた彼女が,口角をあげたのが見えた。
「なに? ほんとに知らないの……? なんだ,心配することなかった。そんな大事なこと隠されてるなんて……あなたも大して想われてないんじゃない」
それは……本当のことなら,そうなのかもしれない。
なにショック受けてるのって自分でも思うけど。
でも,だけどあんなにも私の趣味に付き合ってくれて。
あんなにも一緒にいたのに。
そんな話は1度も,若菜くんが来てからすらも教えてはくれなかった。
「ちょっとちょっと~」
その時,第三者が私たちの間にはいるように声をかけてくる。
振り返ると若菜くんで,この状況を見られるのは声優でありおそらく初那くんの事も知っていただろう若菜くんでは少し嫌だった。
恥ずかしい。
なにか,思い上がっていたみたいで。
「初那の初期ファンなのは俺としてもありがとう。それとなく伝えとくよ。でも遥菜ちゃんについては色々間違ってる」
若菜くん……
庇ってくれてるんだと思うと,恥ずかしくて泣きそうになる。
「初那の隣も放課後の時間も,間違いなく遥菜ちゃんの場所で,もの。初那が教えなかったのも,言う"必要がない"くらい大切だから。
大丈夫,初那はちゃんと遥菜ちゃんを大事に想ってるよ。……それだけじゃないけどね」
最後だけは,私を向いていた。
「あいつにも色々あんのよ。あとで聞いてやんな」
頷こうとして,その瞬間。
誰かが私の肩を引いた。
ぽんっとぶつかるそれは,誰かなんかじゃない。