「ヒーローの親友役,当て馬の大也くんは俺が声当ててんだなあこれが。やー中々いじわるな展開だよねぇめくるめく恋」
「す,すごい」
アニメは見たことがないけど,そのキャラクターは絶対にメインキャスト。
真面目で,落ち着いていて,飾らない素直で優しいセリフが大人気。
失礼かもしれないけど,若菜くんなら絶対にチャラい先輩とかだと思うのに,そんな役が出来るならとてもすごい。
そんな私の視線を,真っ直ぐと満足げに見つめる若菜くん。
今度は片手で頬杖をついて,下から私を覗き込んだ。
こてん,と,幻聴がする。
「やったげよっか? 初那の掛け合い,みたくない?」
ーあーあ~,花盛りのキスなら俺が主役なのに
半分くらい,上手く耳に入らなかった。
現役のプロ声優,実際に,そのキャラに声を吹き込んでいる人。
高知くんとの掛け合い。
でもいいのかな,声優さんってそれでお金貰ってる人の事なのに……
あでも逆にお金払っちゃだめなのか,著作権とか
色々頭でぶつかり合うけど,結局私は
「初那と俺,こんな豪華なことないと思うなー遥菜ちゃん」
初那くんと若菜くん!!!
これ以上ないほど見たいのだ,聞きたいのだ。
そんな気持ちは,私の顔をずっと面白そうに観察している若菜くんも分かってる。
にこにこと眺めては誘惑する若菜くんが,今は天使に見えた。
「お願いしますっ……っ!!! ね,初那く……。……あっ」
「あら~名前呼びにシフトチェンジ? 食えないこー」
「ちっ違うよっ。だって,若菜くんが」
「俺が?」
初那初那って何度も言うから。
だからつられちゃっただけで。
別に若菜くんの事だって名前で呼んでいるくせに,何故かカアッと頬が熱くなる。
「まー,こんな風にお願いされて……まさか断ろうなんて思わないよな? 初那くん?」
多分,私のためみたいにいいながら。
本当は若菜くん自身が初那くんとやりたいのかな,なんて。
遊びに誘うようにカラカラ笑う若菜くんを見て思った。
この人,本当に好きで声優やってるんだって。
自分の領域に,高知くんを引っ張りたいのかなって。
つまり,高知くんの事が大好きなんだ。