「どうせ聞いてたんだろ,若菜。いいから早く帰れ」
「ぶー。はいはい,まぁいいですよと。邪魔者はここらで帰りまー」
よいせと立ち上がった若菜くんは,踵を返しながら足を止めた。
「あれ,あれあれ~」
少しトーンに喜色が混じる。
すると,さっきまでより更に私に近い位置で,飛び込むようにしゃがんだ。
「これ,『めくるめく恋』じゃない?」
ぺっと覗き込むように指を指す若菜くん。
その先にあるのは,私の手元で見開きにされている単行本。
先ほど高知くんが読み終わったシーンで,そのまま私に返却された物だった。
「知ってるの?」
「うん,そりゃーね。絵見りゃだいたい。俺こと結城なずも出演してますからね~」
「え」
そうだった。
普通の男の子みたいにずっとはしゃいでる若菜くんだけど。
本当は個人情報非公開の,人気声優さんなのでした。
でも,めくるめく恋は,物凄い部数を売り上げている大人気漫画で……