「高知くんっすごいよ……っっ!! さい……え?」
その瞬間,がらがらと開くはずのない扉が開かれる。
こんこんと意味のない内扉へのノックを聞けば,私の首はぐるりと一周回った。
「やっほー。俺とのデート断ってこんなところにいたの? 遥菜ちゃんやるぅ。妬いちゃうな~」
いつからかそこにいた若菜くんは,からかうような笑みを私に向けたあと,高知くんを見た。
「初那も安売りしちゃって~。クラスメートには隠してるのに,遥菜ちゃんには見せてるなんてす·て·き♡」
「うるさい。ってかそれも誤解だし」
「隠してるって?」
「え」
「ううん。何でもないから気にしないで」
そっと私を若菜くんから遠ざけて,高知くんは珍しく微笑む。
そんな高知くんに,またもやニヤニヤが止まらない若菜くん。
私たちの前で頬杖をつきながらしゃがんだ。
「まじで何なの? 何なの? 溺愛なの? そんで囲っちゃってんの? 俺ってばライバル? やだーん」
そして,きゃっきゃっと,若菜くんは訳の分からないことを連発した。
「それで無自覚そうな遥菜ちゃんも可愛いー。で,遥菜ちゃんメガネは? やだ~エッチ~」
「え?!? ちがっっ高知くん!」
そういえば,高知くんに奪われたまま。
見えないほどではないけれど,視界も少しぼやけている。
直ぐに返してくれた高知くんにぺこりと頭を下げて,いそいそとメガネを装着した。
エッチなことなんて……なにもなかったのに!!
若菜くんのばか,と目を向けるとん? と余裕そうな笑みで返ってくる。