「ちょ,ちょっとそんなに」
「1個しか食ってね~ってのー。高知もほんとはやるより貰いたいんでしょーっ。素直になればいいのに,俺みたいに」
机に伏せた若菜くんが,ね? と私に笑う。
廊下から高い音が聞こえて目を向けると,他クラスの女の子からだった。
改めて若菜くんの方を見ると,まだにこにこと人好きのする顔を私に向けている。
なるほど,全部分かっててやってるんだ。
器用だなぁ。
そんな風にしか私には思えないけど。
とはいえ高知くんのおかずは既に1度蓋の上に置かれている。
そのまま返すのも違うような気がするし……
私は若菜くんの言葉を思い出した。
「高知くん。心配してくれてありがとう。でもこんなに貰えないから……交換にしない?」
すっと差し出せば,高知くんは葛藤するように唸って。
最終的に,他のおかずには触れないようにしてくれながら,若菜くんと同じたまごを選んだ。
その横顔がどこか不満そうで,だけど。
教室ではあまり話さないようにしているため,それ以上言及することは出来なかった。
おかずをくれたことといい……どうしたんだろう。
そうやって不思議に思う反面,頭を占めるのは別のこと。
こんな至近距離で会話しちゃった。
どうしよう,声がいいっっ!!!
それにお弁当の交換って,どんなシチュ? イベ?!
いいの? いいのー?!?!
せっかく高知くんのくれたおかずも,心臓がうるさすぎて,味なんて分からなかった。