「一体どういうことなのだ? ブリジット嬢には手紙を出しているのに、俺に手紙をよこさないとは……」

「ああ、イレーネさん。イレーネさんにとっては、私たちよりも友情の方が大切なのでしょうか? この私がこんなにも心配しておりますのに……」

ルシアンとリカルドは互いにブツブツ呟きあっている。

「あ、あの〜……それでブリジット様はいかが致しましょうか? イレーネ様は今どうなっているのだと尋ねられて、強引に上がり込んでしまっているのですけど…… やむを得ず、今応接室でお待ちいただいております」

オロオロしながらフットマンが状況を告げる。

「何ですって! 屋敷にあげてしまったのですか!?」

「何故彼女をあげてしまうんだ!!」

リカルドとルシアンの両方から責められるフットマン。

「そ、そんなこと仰られても、私の一存でブリジット様を追い返せるはず無いではありませんか! あの方は由緒正しい伯爵家の御令嬢なのですよ!?」

半分涙目になり、弁明に走るフットマン。

「むぅ……言われてみれば当然だな……よし、こうなったら仕方がない。リカルド、お前がブリジット嬢の対応にあたれ」

「ええ!? 何故私が!? いやですよ!」

首をブンブン振るリカルド。

「即答するな! 少しくらい躊躇したらどうなのだ!?」

「勘弁してくださいよ。私だってブリジット様が苦手なのですよ!?」

「とにかく、我々ではブリジット様は手に負えません。メイドたちも困り果てております。ルシアン様かリカルド様を出すように言っておられるのですよ!」

言い合う2人に、オロオロするフットマン。

「「う……」」

ブリジットに名指しされたと聞かされ、ルシアンとリカルドは同時に呻く。

「リカルド……」

ルシアンは恨めしそうな目でリカルドを見る。

「仕方ありませんね……分かりました。私が対応を……」

リカルドが言いかけたとき――

「ルシアン様! ご報告があります!!」

突然、メイド長が開け放たれた書斎に慌てた様子で飛び込んできた。

「今度は何だ? 揉め事なら、もう勘弁してくれ。ただでさえ頭を悩ませているのに」

頭を抱えながらメイド長に尋ねるルシアン。

「いいえ、揉め事なのではありません。お喜び下さい! イレーネ様がお戻りになられたのですよ!」

「何だって! イレーネが!?」

ルシアンが席を立つ。

「本当ですか!?」

リカルドの顔には笑みが浮かぶ。

「よし、分かった! すぐに会いに行こう! 彼女と話したいことが山ほどあるからな! それで今イレーネは何処にいるのだ? ひょっとして、ここへ向かっているのか?」

一気にまくしたてるルシアン。

(祖父とどの様な会話をしたのか、尋ねなければ! 何しろ後継者問題が絡んでいるのだからな!)

しかし周囲の者から見れば、今のルシアンはイレーネの帰還を大喜びしているようにしか見えない。
勿論その中にはリカルドも含まれている。

「まぁ、ルシアン様はイレーネ様がお帰りになったのがそんなに嬉しいのですね?」

メイド長はニコニコしながら尋ねる。

「いや、それは違うぞ? 俺は……」

「ですが、すぐにお会いになるのは難しいかと思われます。何故ならブリジット様と今、応接室でお話になっておられますから」

「「な……何だって〜!!」」

再び、ルシアンとリカルドの声がハモるのだった――