ブリジットをエントランスまで案内している最中、突然リカルドは背後から呼び止められた。

「リカルド様! 申し訳ございません! 本日納品していた品物の件で、大至急確認していただきたいことがあります!」

一人のフットマンが慌てた様子で駆け寄ってきた。

「え? 本日納品……? もしかして輸入した茶葉の件ですか?」

リカルドが眉をひそめた。

「はい、そうです。何か手違いがあったようでして……」

「そうですか……」

返事をしながら、リカルドはチラリとブリジットを見る。

「何よ? 私なら案内は結構よ。急ぎの御用があるのでしたら、どうぞ行って下さいな」

「さようでございますか? お優しいお言葉、ありがとうございます。ですが、ブリジット様をお一人でエントランスまで行って頂くわけにはまいりません。君、代わりにブリジット様に付き添ってあげて下さい」

「はい、分かりました。ではブリジット様。私が代わりにお供致します」

リカルドに命じられたフットマンはブリジットに話しかけた。

「そう? ならお願いするわ」

「ブリジット様。それでは私はこちらで失礼させていただきます」

返事をするブリジットに会釈すると、リカルドは踵を返して倉庫へ足を向けた――



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「ふぅ……やっとお屋敷の前に到着したわ」

警察官と別れてマイスター家の敷地に入ったイレーネ。10分近く歩き続けて、ようやく扉の前に到着した。

「まぁ……それにしても、マイスター家はお屋敷だけでなく扉もとても大きいのね……どこかにドアノッカーは無いかしら?」

扉付近をキョロキョロしていたイレーネ。すると、突然目の前の扉がゆっくり開かれた。

「「え?」」

すると、ちょうどフットマンに連れられてエントランス前に立っていたブリジットと偶然対面した。

ブリジットは目の前に立っていたイレーネを値踏みするかのように上から下までゆっくりと見つめ……口元に意味深な笑みを浮かべた。

(随分貧しい身なりね……ここのメイドかしら? その割には正面から入ってくるなんて図々しい女ね)

ただ、外見が美しいのが気に食わない。

「ちょっと、ここはあなたのような身分の者が気安く出入りしていい場所じゃ無いわよ? 入るなら、せめて裏口からにしたらどうなの?」

するとその言葉にイレーネは目を見開いた。

「まぁ、そうだったのですか? どうりで立派な入り口だと思いました。初めてこちらに伺ったものでして勝手が分かりませんでした。教えていただき、ありがとうございます」

「え? ま、まぁ分かればいいのよ」

嫌味のつもりで言ったのに、お礼を言われて戸惑うブリジット。

「ここまででいいわ。それでは失礼。ルシアン様にきちんと伝えておいてね」

ブリジットはフットマンに声をかけた。

「はい、かしこまりました」

「裏口の場所、ちゃんと教えてもらうのよ」

ブリジットはイレーネにそれだけ告げると、去っていった。

「「……」」

イレーネはブリジットが建物の陰に消えていくのを見届けると、フットマンが声をかけてきた。

「あの、そう言えばどちらさまなのでしょうか?」

「あ、ご紹介が遅れて申し訳ございません。私、イレーネ・シエラと申します。リカルド・エイデン様に御用がありまして、伺わせていただきました。

そして、イレーネは笑みを浮かべた――