2人で庭の後片付けの作業を開始して約1時間後――

「ありがとうございます、お陰様ですっかりお庭が綺麗になりました」

イレーネがケヴィンに礼を述べた。

「いえ、いいんですよ。地元住民として協力しただけですから。それではそろそろ帰りますね」

ケヴィンが軍手を外し、帰り支度を始めるのを見てイレーネは声をかけた。

「あ、そうですわ。少し、お待ちいただけますか? すぐに戻りますので」

「え? ええ、いいですけど?」

イレーネはケヴィンをその場に残すと、いそいそと家の中に入っていった。そして数分後、トレーを手にして戻ってきた。

「これ、ほんのお礼です。どうぞ」

トレーの上にはグラスに注がれた飲み物に、スコーンが乗っている。

「え? 頂いてもよろしいのですか?」

「はい、これはミントティーです。疲れた身体にいいですよ? こちらのスコーンも私のお手製です」

するとケヴィンが笑った。

「アハハハハッ。大丈夫ですよ、僕の職業をお忘れですか? 警察官で体を鍛えていますからこれくらい、どうってことないです。でも折角なのでいただきますね」

「ええ。どうぞ」

ケヴィンは早速グラスを手に取ると、ミントティーを口にした。
余程喉が渇いていたのか、そのまま一気に飲み干しとグラスをトレーに戻した。

「さっぱりした味で美味しいです。ありがとうございます。あの、スコーンはお土産に頂いて帰ってもいいですか? 家に帰ってからの楽しみにしたいので」

「それでしたらもっと持って行って下さい。まだ沢山ありますので。今取ってまいりますね」

「い、いえ。何もそこまでして頂かなくても……」

しかしイレーネは最後まで聞かずに家の中に入ると、今度は紙袋を手に戻ってきた。

「どうぞ、ケヴィンさん。5個差し上げますわ」

そして笑顔で差し出す。

「え? そんなに頂いてもいいのですか?」

「ええ、勿論です。ケヴィンさんには今までにも色々お世話になっておりますから。どうぞお持ちになって下さい」

「……どうもありがとうございます。では、遠慮なく頂きますね」

顔を薄っすら赤らめながらケヴィンは受け取った。

「それでは僕はこの辺で」

「はい、今日は本当にありがとうございました」

ケヴィンは馬にまたがると、イレーネを見つめる。

「イレーネさん」

「はい。何でしょう?」

「今日は……一緒に働けて楽しかったです。それでは失礼しますね」

「え? は、はい」

キョトンとするイレーネに見送られ、ケヴィンは馬に乗って去って行った。
その後姿を見送るイレーネはポツリと呟く。

「ケヴィンさんて……働くのが余程好きな方なのね。さすがはお巡りさんだわ」

ケヴィンの協力のお陰で、畑はすっかり元通りになっていた。

「これなら、明日にでもルシアン様の元へ戻れそうね。フフフ……何だか我が家に帰る気分だわ」

イレーネは青空を見上げて、伸びをすると家の中へ入って行った。

マイスター家に帰宅する準備をするために――